全米マジシャンズ協会が発表!「2016年にバズったことトップ20」


アメリカ時間12月30日、S.A.M.(全米マジシャンズ協会)が運営する情報サイト「The Magic Compass」にて、2016年に話題になったマジック関連のニュースや動画をトップ20としてまとめた記事を公開した。

先日の「2016年マジック業界で起きた12のコト」では、日本のマジック業界への影響度や見習うべき点などから、私の独断でテーマ別にニュースをピックアップしていたが、こちらはアメリカ国内でバズったニュースが中心となっている。

The Top 20 Magic Posts of 2016 | The Magic Compass
http://www.magic-compass.com/top-20-magic-posts-2016/

第20位:ハリソン・グリーンバウム

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マジシャンであり、コメディアンでもあるハリソン・グリーンバウム(Harrison Greenbaum)が書いたコラム「マジシャンがコメディを扱う際に知っておくべきこと」に関心が集まったことから、第20位にランクインしたようだ。内容は若干手厳しく、コメディアンっぽくジョークにまみれており、示唆に富むものだけを一部抜粋してみる(以下、2017年3月26日に追記)。

1, 全てのネタを自分の力で作る
あまりに多くのコメディマジシャンはオリジナルのマジックを求めているものの、普通のコメディアンの場合は大概お決まりのネタやマジシャンから仕入れたジョークを使う傾向にある。だからといって、これが正しいというわけではない。自身のショーにコメディとマジックを持ち込むのだとしたら、どちらも自分にとってユニークなものでなくてはならない。芸術(アート)と工芸(クラフト)は違う。マジックショップで購入したようなネタは既にセリフが備え付けられており、それは芸術ではなく、ただの工芸だ。そして、書店に並んでいるようなジョーク本もまた同じだ。そういった本を見るたび、吐き気を覚えた方がいい。

2. マジックをせずにコメディに挑戦してみよう
夜にでも、スタンドアップセットを一式持って試してみてほしい。そして、絶対にラストをトリックで飾るようなマネは控えることだ。自身の言葉やジョークだけを使って人々を楽しませる様を感じてみてほしい。もしそこで人々を笑わせることができたら、次はそこにトリックを足していく。そうすれば、あなたは怖いものなしだ。

3. 「笑う耳」への対処
笑う耳(Laugh ears)とは、コメディアンやコメディマジシャンたちがそこにはない笑い声が聞こえてしまうという状態のことだ。例えば、周りの人にウケていないにもかかわらず、不愉快なジョークを話し続けてしまったり、客席がぶつぶつ言いだしてもそれにつられることなく演技を続けたり、最悪、パフォーマーとして成長が望めないなどが挙げられる。こうした状態を抜け出すには聴衆からのフィードバックには率直に受け入れることだ。加えて、「大丈夫」や「良かった」、「素晴らしい」という言葉の意味にはそれぞれ違いがあることを知るべきだろう。観客からのフィードバックを適切に受け取る方法として、パフォーマンスを行う度に音声を録音しておくことだ。(これにより、ショーの後で聴衆のフィードバックを冷静に分析することができる)

4. 独自の視点を持つ
あまりにも多くのコメディマジシャンたちは基本的に同じことをしている。大声で騒がしく、若干の皮肉が入ったサカートリック満載のスタイル。あなたは自分だからこそできるということにもっと時間を割くべきだ。しかも、他の人にマネされても、それが自身のネタではないとを聞いている人たちが勘づくような独自性が理想だ。

第19位:ニール・パトリック・ハリスがトーク番組「Jimmy Kimmel Live」に出演

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俳優のニール・パトリック・ハリス(Neil Patrick Harris)がデザインしたデックが海外メーカー「theory11」でリリースされた。ニールのデック「Neil Patrick Harris Playing Cards」はアフリカのエイズ対策を支援する通称「REDブランド」として、収益の一部が基金に寄付される。ニールは支援者を増やすため、アメリカのトーク番組「Jimmy Kimmel Live」に出演し、まるで通販番組のようにそのデックを使ってマジックを披露した。

実際の映像がコチラ

第18位:ジャネット・アンドリュースのマジックがネット上で議論の的に

4月中旬、シカゴの女性マジシャン、ジャネット・アンドリュース(Jeanette Andrews)がテレビ出演した際、バラの花びらをタマゴに変えるマジックを披露した後、ネット上でそのトリックが話題になった。

実際の映像がコチラ

まず、ジャネットは花瓶に入った白いバラの中から観客がランダムに一本選ぶ。次に、彼女はその花から花びらを一枚取り、グラスの中へ入れる。その後、グラスを数秒間ゆっくりとまわしていくと、徐々に
花びらがタマゴへと変化していく様子を見てとれる。最後にジャネットはそのタマゴが本物だと証明するようにタマゴを割り、グラスの中に黄身をぶちまけて、終了。

第17位:ペン&テラー、トーク番組「The Tonight Show」に再び出演

7月、ペン&テラーがトーク番組「The Tonight Show」に2度目の出演を果たした。その際、観衆全員を巻き込んだDo as I do(演者と観客が同じ操作をして不思議な現象を起こすこと)を披露してみせた。

 
第16位:マジック雑誌「Genii」が売却される

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2016年3月、発行者のリチャード・カウフマン(Richard Kaufman)はランディ・ピッチフォード(Randy Pithford)にGenii誌を売却したことが明らかになった。元々、Genii Magazineは代々ラーセン一家(The Larsen family)が発行していた出版物で、カウフマンは1988年からGeniiの権利を獲得し、それ以来、Geniiの出版や編集、作画等に関わってきた。

一方、ランディ・ピッチフォードとは一体何者なのか(左の写真参照)?彼の職業はゲームソフト会社「Gearbox Software」の創業者にして、CEO(最高経営責任者)を務める。代表作として、日本ではXbox360の「Borderlandsシリーズ」などが挙げられる。

これだけ見ると、全くマジックに関係のない人間のように思えるが、実際のところ、ランディはマジック界の歴史に深い関わりをもっている。勘のいい人ならば、リチャード・ピッチフォード(Richard V. Pitchford)と聞いて、ピンと来るかもしれない。彼の大叔父は、かのカーディーニ(Cardini, 本名:リチャード・ピッチフォード)にあたり、彼自身、長年マジックキャッスルのメンバーとして在籍している。

また、マジックのコレクターとしても知られている、2013年に行われたPotter&Potterのオークションでは、カーディーニ関連の品々を競り落としてはその多くをマジックキャッスルに寄贈したり、ペン&テラーの1人、ペン・ジレット(Penn Jillette)のポニーテールを断髪した際の髪の毛を2万5000ドルで入手することもあった。

なお、Genii誌は2017年をもって発刊80周年を迎える。

第15位:ランス・バートンが新作映画を製作

ランス・バートン(Lance Burton)は映画「Billy Topit: Master Magician」の製作、脚本、監督、主演の1人4役を務め、5月12日~19日にかけてアイオワ州のワイルド・ローズ・インディペンデント映画祭(Wild Rose Independent Film Festival)で公式セレクションとして選ばれた。

次の動画は映画「Billy Topit: Master Magcian」の予告編

第14位:ポール・オズボーン 死去

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ポール・オズボーン(Paul Osborne)はイリュージョンに使われる舞台装置の製作を専門に扱うイリュージョンデザイナーとして、デビッド・カッパーフィールドやデビッド・ブレインなどトップマジシャンを多くクライアントに持っていた。

第13位:マーベルコミックにペン&テラーが登場

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マーベルコミックの「スパイダーマン/デットプール 第11号」の中にペン&テラーが登場した。長身のペンは既に海外ドラマに多数ゲスト出演したり、時折ドキュメンタリー番組などにひょっこり顔を出したりと、もはや一介のマジシャンという枠を完全に超えているように思えてならない。

第12位:アイリーン・ラーセン 死去

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2016年2月25日、マジック界のプリンセス、アイリーン・ラーセン(Irene Larsen)が亡くなった。彼女はマジックキャッスルの共同創設者であり、Academy of Magicial Arts(通称AMA)を広める国際大使として活動を続けてきた。

第11位:人気オーディション番組「America’s Got Talent」にジョン・ドレンボスが出演

ジョン・ドレンボス(John Dorenbos)とは何者か?アメリカでは、フィラデルフィア・イーグルスに所属するプロのアメリカンフットボール選手として知られている。そして、ご察しの通り、「America’s Got Talent」では、そのガタイの良さからは想像もできないスピーディーなカードマジックを披露してみせ、人々の度肝を抜いた。

私が思うに体格に反比例するかのようなマジックがギャップを生むのはエンターテイメントの定石だが、彼の場合はもっとあくどい。

例えば、日本のテレビ番組でもそうだが、女性アイドルがカワイイのは当たり前だが、ブサイクのたまり場(ステレオタイプ)と化している女芸人の中に性的要素が垣間見える若くて可愛い女性芸人が出てきたら、皆どんな反応をするだろうか。また、お笑い芸人のものまねがそれなりに似ているのは当たり前の話だが、ただのタレントがお笑い芸人顔負けのものまねを披露したら、テレビ関係者はどんな反応を示すだろうか。

以前、テレビ朝日のバラエティ番組「しくじり先生 俺みたいになるな!!」に出演していたお笑い芸人、おかもとまりが言っていたことだが、こうした全く土俵の違う人間はやる前からハードルが下がっており、その状態でプロの人間と同じことをすると、プロ以上にウケる。

そして、ドレンボスもまさしくそれと同じ状況にあった。それゆえか、ついにはファイナリストまで勝ち残ってしまったのだから、日本でも・・・。いや、似た人がいたような・・・。

第10位:MAGIC Magazine、25年の歴史に幕を閉じる

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MAGIC Magazineの編集者であるスタン・アレン(Stan Allen)は301号の発行後、正式に出版業から手を引くことを決めた。当初の予定では、MAGIC Magazineの廃刊後に「MAGIC LEGACY」と題した2年間限定の購読誌を発行する予定だったが、思った以上に読者数が少なったことを機に、これらの企画は取り止めとなった。その後、MAGIC LEGACYへの支払った料金について、Genii誌は全額返金かGenii誌への購読料金振替を提案する事態となった。

第9位:The Illusionists

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2016年、「The Illusionists」はアメリカを中心に世界中で話題を呼ぶこととなった。その中でも、「The Turn of the Century」(かつて「The Illusionists 1903」として知られていユニット)はブロードウェイ版の「The Illusionist」として、人気を博している。この大型のユニットは各々がアメリカの人気オーディション番組や「Fool Us」に出演するなど、テレビでの露出が多く、それがある種のプロモーションに繋がったと考えられる。

なお、「The Illusionist」は2016年に最も稼いだマジシャンランキングの中で第5位にランクインしている。

第8位:トム・マリカ 死去

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2016年2月18日、ヘルニアの手術の合併症で複数の血栓が生じ、脳卒中を引き起こしたのが原因とみられている。マリカは口に何本ものタバコを食べるかのように演じるシガレットマジックで有名。

第7位:ショーン・ファークワー、「Fool Us」に再登場

カナダのマジシャン、ショーン・ファークワー(Shawn Farquhar)がペン&テラーの冠番組「Fool Us」に2年ぶりに再出演。そこで、彼はまたしてもペンとテラーを引っかけることに成功した。2016年7月31日の放送後、瞬く間に拡散され、様々な動画サイトで再生回数100万回超えを記録した。

第6位:ポール・ダニエルズ 死去

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2016年2月20日、治療不可能な脳腫瘍との診断を公表するも、その1ヶ月後、家族に看取られながら亡くなった。イギリスのBBCにて、1979年から1994年まで15年続いた長寿番組「Paul Daniels Magic Show」は番組終了後も反響が大きく、クリスマスのスペシャル番組が放送されたり、その続編となる番組が制作された。その人気ぶりはイギリスにとどまらず、日本のマジシャンにも多くの影響を与えた。

第5位:映画「グランドイリュージョン~見破られたトリック~」

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2013年の映画「グランドイリュージョン」の続編が昨年全世界で公開された。Magic Compassによれば、「本シリーズでは、マジシャンが社会的に不適応な人間として描かれていないため(ほとんどの映画ではそんな風に扱われている)、マジック業界にとってメリットが大きいと考えられている」そうだが、代わりに映画に出てくる登場人物たちが超人的なスーパーヒーローのように見え、ほとんどアベンジャーズやX-メンと変わらないと指摘している。

第4位:「Fool Us」に登場したビニー・グロッソ、全国ネットで全裸になる

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S.A.M.(全米マジシャンズ協会)の元会長でもあるマジシャンのビニー・グロッソ(Vinny Grosso)は「Fool Us」に出演した際、全裸でもマジックができるとして(本来はこのようなスタイルではない)、着ているものを全て脱ぎ捨て、味覚だけを頼りにカード当てに挑むマジックを披露。そして、見事ペン&テラーを引っかけることに成功した。

実は、このようなかなり大胆なマジックの見せ方は彼が初めてというわけではない。2015年、「The Naked Magicians」と名乗る男性2人によるコンビが登場し、一時期話題になった。日本では、お笑い芸人がほぼ全裸でテレビに出ることが度々あるが、これをマジックに応用しようとは「恐れいった!」という感じ。とはいえ、2015年の「The Naked Magicians」は男性ストリッパーのような出で立ちで、厳密には趣向が違うといったところか。

第3位:クレアボヤント、「American’s Got Talent」で大健闘

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2016年、トミー・テン(Thommy Ten)とアメリ・ヴァン・タス(Amelie van Tass)は男女混成のメンタリストデュオ「クレアボヤント」(The Clairvoyants)として、テレビや舞台、インターネットで最も注目されたマジシャンといえるだろう。2015年のFISMイタリア大会での活躍を受け、翌年、アメリカの人気長寿番組「America’s Got Talent」に出場した。この間、彼らは自らの公式ファンサイトを立ち上げたり、IBM(The Internatinal Brotherhood of Magicians)のコンベンションやMAGIC Magazine主催の「MAGIC-Live」にゲスト出演するなどの多忙な毎日を送っていながら、なんと「America’s Got Talent」にて準優勝となった。

また、新たなマジックショーとして話題沸騰中の「The Illusionists」のブローウェイ版「Turn of The Century」に参加するなど大活躍の1年となった。

第2位:マイケル・カルボナーロ、カッパーフィールド賞を受賞

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2016年6月、デビッド・カッパーフィールドは業界内で優れた業績を残したといえる者に特別賞を授与することを発表した。カッパーフィールド賞では、パフォーマンスや制作、出版物にライフワークなど、マジックという名のアートに際立った貢献をした個人及びグループを対象にS.A.Mを通じて授与される。しかも、このカッパーフィールド賞では、賞金として1万ドルが贈呈されるという珍しい賞でもある。

そして今回、初の受賞者となったのがマイケル・カルボナーロ(Michael Carbonaro)。2016年に「最も稼いだマジシャンランキング」で第7位に躍り出たくらいで日本ではまだまだ無名とったところか。受賞理由は通りすがりの人にマジックとは知らずに不思議な現象を見せ、その反応を隠しカメラで伺うといったスタイルの演出方法のパイオニアだそうで、彼がホストを務める番組「The Carbonaro Effect」は2017年にシーズンの更新が決定している。

第1位:HR642

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2016年、最も拡散されたマジック関連のニュースはアメリカ議会にマジックを芸術として認めてもらう法案「HR642」だろう。「HR642」とは、マジックが希少価値のある芸術であることやアメリカの国宝として認めてもらう法案のことだ。この法案はデビッド・カッパーフィールドやテキサス州ワイリー市の市長であり、S. A. M. メンバーのエリック・ホーグ(Eric Hogue)らとともに作成され、2016年3月14日にアメリカの下院委員会を通過した。

もし、この法案がこのまま上院委員会を通過し、アメリカ大統領の署名をもらえた場合、アメリカのマジックは晴れて「芸術」として国に認められることになる。言い換えれば、これはマジックを「芸術」とみなしたアメリカは積極的にマジックの知的財産権を保存、保護に努めることになる。そして、子供たちにマジックを見せる慈善団体「Project Magic」などに国が助成金を出すといった措置も受けられる。それこそ、映画や音楽、文学と同じ扱いと受けることになる。

なお、この法案が2017年に上院委員会へ提出されるのかどうかについて、詳細は明らかになっていない。

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