有名マジシャンたちが選んだ「13冊のマジック以外のオススメ本」


知識や教養を磨くことがその後のマジックに良い影響を与えるとされている。とはいえ、実際、どれを読むべきかについては、あまり語られない。良いマジック本は知られているが、マジシャンとして活動するうえで読むべき本やクリエイティビリティが養える本などはほとんど聞かれない。

そんな中、「Conjuror. Community」では、海外の有名マジシャンたち13人それぞれに1冊ずつオススメ本を選定してもらう企画を行った。

The Best Magicians in the World Recommend One Non-Magic Book | Conjuror. Community
http://conjuror.community/the-best-magicians-in-the-world-recommend-one-non-magic-book-for-magicians/

特定のジャンルのマジックについて学びたいとき、それについて詳しく書かれた本を探し出すことはそう難しくない。しかし、世界のプロマジシャンたちがどのようにして「マジック」というものに向き合っているのかについて知りたい場合、そうした本は簡単には見つけられるわけではない。

そこで、私たちは以下の方々にマジシャンが読むべきだと思う、マジック外の一般書をそれぞれに選出してもらった。

アンディ・グラッドウィン(Andi Gladwin)、ビル・アボット(Bill Abbott)、ニン・チャイ(Ning Cai), ポール・ウィルソン(R. Paul Wilson)、ダン・スペリー(Dan Sperry)、マイケル・クロース(Michael Close)、スコット・ハメル(Scott Hammell)、ジョン・アーチャー(John Archer)、リサ・メナ(Lisa Menna)、アロン・フィッシャー(Aaron Fisher)、デビッド・ウィリアムソン(David Williamson)、ダイアナ・ジンマーマン(Diana Zimmerman)、ジョン・ガスタフェロー(John Guastaferro)

◆アンディ・グラッドウィン推薦:
クリエイティブの授業 STEAL LIKE AN ARTIST ”君がつくるべきもの”をつくれるようになるために」by オースティン・クレオン

steal

見た目はCDアルバムに特典として付いてくる正方形のブックレットという出で立ち。本書で語られる内容はあらゆるジャンルの創作活動に通ずるとされ、推薦者のグラッドウィンは「マジックもこれに含まれる」としている。本書ではどうしたらクリエイティブな人間になれるのかを中心に短いエッセイや先人たちの格言によってまとめられたアイデア集となっている。

◆ビル・アボット推薦:
世界を変えた伝説の広告マンが語る-大胆不敵なクリエイティブ・アドバイス」by ジョージ・ロイス

全ページオールカラーの本書は120個のフレーズをもとに自身の体験談や「広告とは何か」「アイデアとは何か」について語られたエッセイ集。
最初は格言集のような体裁にうんざりする人もいるかもしれない。だが、その後の内容は徐々にヒートアップ。自身のブランディングやセリフ回し、プレゼンテーションなどマジックやその活動について直接言っているのではと思しき箇所が散見されるようになっていく。アイデア1つで人々を扇動するという意味では、広告マンもマジシャンも同じ立ち位置にあるからとも考えるようになる。

ちなみに、第75訓にはペン&テラーのペン・ジレットがひょっこり顔を覗かせている。

◆ニン・チャイ推薦:
ネバーウェア」by ニール・ゲイマン

gaiman

「Magic Babe」として知られ、東南アジア初の女性マジシャン、ニン・ツァイ曰く、「彼にはいつもクリエイティブの限界を魅せられっぱなしだからね」としている。彼女は過去に2冊の本を出版し、そのどちらの本でも「まえがき」にニール・ゲイマンが登場し、感情的な繋がりが本書を取り上げた理由とも考えられる。

ちなみに、ニール・ゲイマンとはアメコミの原作など手掛ける作家で、最近では小説「アメリカン・ゴッズ」がテレビドラマ化されるなど注目を集めている。

◆ポール・ウィルソン推薦:
おおきな木」by シェル・シルヴァスタイン

givingtree

誰もが一度は聞いたことはある有名な絵本。無償の愛をテーマにしているが、これがどうマジックと関わるのかを考えていくと、哲学的な思想の良い出発点になると思う。

◆ダン・スペリー推薦:
コミュニオン-異星人遭遇全記録」by ホイットリー・ストリーパー

communion

映画「デイ・アフター・トゥモロー」の原作者であるホイットリー・ストリーパーが実際に体験した宇宙人との遭遇話。本書で表現される得体の知れない何か対する恐怖への描写はビザーマジックを目指す者にとって良い刺激になると思う。ダン・スペリーがそうであったように…。

◆マイケル・クロースとスコット・ハメルが同一書を推薦:
ファスト&スロー(上・下) あなたの意思はどのように決まるか?」by ダニエル・カーネマン

fast

slow

認知バイアスについて書かれた最高の本と称される本書は、読者にもバイアスがどんなものかを体験できる構成となっており、実生活に照らし合わせながら、理解を深めることができる。読破後、バイアスが何かを知らずして論理を組み立ててはいけないし、外部の情報をそのまま鵜呑みにするのも危険な行為だとわかるだろう。おそらく、本書を推薦した目的はこれらの知識を使って観客にどうはたらきかけるかよりも、改めて自分を律することに焦点が当てられたものだろう。

◆ジョン・アーチャー推薦:
Word Hero: A Fiendishly Clever Guide to Crafting the Lines that Get Laughs, Go Viral, and Live Forever」(洋書)by Jay Heinrichs

word-hero

いまだ邦訳されていない本書は言葉を自在に操り、どうしたら人々の記憶に残るスピーチを行うことができるについて語られている。

◆リサ・メナ推薦:
「Notebooks of Leonardo Da Vinci: Complete」(洋書)by Jean Paul Richter

davinci

本書はレオナルド・ダ・ヴィンチが遺した建築や解剖学、土木工学などに関する手稿(=ノート)を1冊にまとめられたもの。なぜ本書が選ばれたのかは定かではないが、生前、ダ・ヴィンチは「万能人」と言われるようにあらゆる分野を研究していた。

マジックが様々な学問分野を横断する複合分野であるようにたくさんの分野に興味を持つことの意義を知らせたかったのかもしれない。

◆アロン・フィッシャー推薦:
神話の力」by ジョーゼフ・キャンベル

myth

「古今東西の神話から何がいえるのか」という壮大なテーマで語られた神話学者のジョーゼフ・キャンベルとジャーナリストのビル・モイヤーズによる対談本。世界中の神話に共通する特徴から人々の無意識を探ろうする姿勢はユングを思わせるが、内容は彼ほど突飛なものではない。

たしかに、フィクションを投影として捉え、古今東西の神話を「量」として当てはめ、それを科学的エビデンスにしてしまっている点には驚かされるし、一瞬呑み込まれそうになる。しかし、あくまで過去の人間はこう考えていたのだと割り切って捉えれば、全体像を俯瞰でき、大いに楽しめる。

◆デビッド・ウィリアムソン推薦:
弓と禅」by オイゲン・ヘリゲル

yumito

海外では人気の禅の境地についてドイツ人哲学者が身をもって体験したノンフィクション。

◆ダイアナ・ジンマーマン推薦:
Ovitz: The Inside Story of Hollywood’s Most Controversial Power Broker」(洋書) by Robert Slater

ovitz

ハリウッドで活躍したブローカーの内情に語られたものであり、日本での活動にそのまま応用するのはあまり期待できないかもしれない。

◆「ポジショニング戦略」by アル・ライズ

posioning

ジンマーマンがもう1冊推薦したのがマーケティングのバイブル「ポジショニング戦略」である。本書は、セミプロとして、またプロとして本腰を入れようと考えている人にはぜひ読んでほしい。「万人ウケの幻想は捨てろ」「二番手の勝ち方」「良いネーミング、悪いネーミング」など、たくさんの実例を通して解説され、マジックというサービスを提供しようと考えている人には必須本だ。

◆ジョン・ガスタフェロー推薦:
スターバックスはなぜ値下げもテレビCMもしないのに強いブランドでいられるのか?」by ジョン・ムーア

star

このタイトルを読んで最初に思うのはきっとマジシャンとしての活動にも大いに言えるのでは?ということ。もちろん、本書はスターバックスという経営組織を焦点に語られ、フリーランスの個人を対象にしているわけではない。だが、マーケティングでよくいわれる「体験を売る」という点では、スターバックスもマジシャンも同じだと思う。マーケティングでは、よくスターバックスはコーヒーを売っているのではなく、コーヒーを通して家族との休日やノスタルジックな空間を提供をしていると表現される。

ガスタフェロー曰く、「手元の小道具だけでなく、そうした経験に焦点を当て、明らかにした素晴らしい方法が載っている」という。

また、彼はマーケット戦略家のセス・ゴーディン(Seth Godin)のブログを読むことを強く薦めている。

今回のリストの中にはこれがどうマジックに関係するのか首を傾げたくなる本がいくつかあったと思う。

これについては、実際に気になった本を手に取ってみて考えてみるといい。ただ普通に読むのではなく、彼らが何にインスレーションを受け、どこがマジックの性質と似通っているのかを探すことで、普通にマジック本を読むよりも新しい読書体験をもたらしてくれるかもしれない。