【コラム】もしマジック業界にクラウドファンディングがあったとしたら?


レクチャーノートやDVDと違い、ギミックや小道具といった物理的な製品はコストがかかるものだ。仮にアイデアがあったとしても、それに需要があるという確信はほしいだろうし、そうした確信を得るためにはそれなりの人脈が必要だ。そして、元手となる資金も同様に…。

しかし、もし日本のマジック業界にクラウドファンディングがあったとしたら、どうだろう?

もしかしたら、そうした問題は解決できるかもしれないし、トリックという枠にとらわれることなく、もっと自由な製品を業界内に送り届けられるかもしれない。

例えば、新しいデックデザインの考案や面白い演出ができるギャフカードのデザインに始まり、生産が終了したマジックを復活させたいと考える人や女性マジシャン向けのアクセサリーを作りたいと考えてる人などなど…。

これによって、埋没しかけていた様々なアイデアを掘り起こすことができると思う。

クラウドファンディングの効果的な使い方

strategy

また、クラウドファンディングはそのアイデアがどれだけの人に求められているのかを知る良い機会にもなるだろう。言葉を変えれば、ある意味、これが市場調査にもなるのだ。

例を出そう。2016年5月、東芝は日本のクラウドファンディングサービス「Makuake」において、体内のアルコール濃度を測定・管理する学習型ガジェットを提案し、初日に目標金額150万円の資金調達に成功。その後も金額は増え続け、締切日には1500万円を突破するまでに至った。

Tispy | Makuake https://www.makuake.com/project/tispy/

tousiba

東芝という有名メーカーがクラウドファンディングを通して資金調達を行った理由は次の3点。

1. リスク回避

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コストをかけて作った製品が失敗するよりもアイデアの段階で頓挫した方が損失は断然低い。

2. ダイレクト・チャネル

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作った製品を卸売店を介して販売するよりも支援者(ユーザー)と直接取引した方が利益は断然高い。(マジックショップの場合、多くは商品価格の50%が卸売価格として取引される)また、支援者との直接取引によって広告費を削減することができる。

3. パブリシティを起こす

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熱烈な支援者たちが自らのSNSを使って、周りの人に商品を訴求する手伝いをしてくれる可能性がある。製品がニッチであればあるほど、業界内で話題になりやすい。

支援者(ユーザー)のメリット

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マジック専用のクラウドファンディングサービスはアイデアを掘り起こす以外にも支援者にとってたくさんのメリットがある。それは支援した金額に応じて得られるサービスだ。購入型のクラウドファンディングでは、支援額によって様々なリターンが用意されており、それが新しい購買体験をもたらしている。

先程の東芝のアルコールガジェットを例にしよう。9000円コースの支援を行った場合、ガジェット本体が販売価格の22%で受け取れ、かつ4GBのSDカードがもれなく付いてくる。

さて、これをマジック製品に応用したとすれば、どうだろうか?

マジシャンとして先行販売は大きな意味を持つばかりか、通常価格よりも安く入手することができる。こうしたリターンはアイデア次第でいろんなモノに形を変えることができる。有名クリエイターならサインやメッセージカード、予備のリフィル、サトルティ、さらには販売権の許可なんていうのもアリだろう。

課題とその解決案

puzzle

考えられる課題として、やはりクラウドファンディングだからこそといえる問題がある。それはこのサービスをビジネスとして成立させることができるかどうかだ。目標達成金額が15%~20%だったとしても、巨大プロジェクトとして何個も成立しなくては、ビジネスとして成り立たない。今回のようにマジック専門であることを考えると、それは厳しいだろう。

だが、既存のマジックショップがいちサービスとして行った場合には話が異なってくる。こうしたサービスを1から作り上げるためには広告塔となりうる業界人が先導しなければ、業界内に浸透させることはできない。そして浸透しなければ、人々のアイデアを掘り返すことはできず、そのまま頓挫となる。

しかし、マジックショップなら認知度は高く、ホームページ上で告知すれば、業界内にその存在を認知させることはそう難しくはないだろう。それにマジックショップならば既製品に詳しいため、持ち込まれるアイデアを選別することができる。

あとは人々の関心を集め続けるだけだ。つまりはマジックショップならではの人脈を使い、有名クリエイターなどに率先して企画を出してもらう。前述のとおり、クラウドファンディングは市場調査としての役割を果たすことができるため、(ダイレクトチャネルという意味でも)クリエイター側に損はないはずだ。これはそれまでマジックショップAを利用してきたユーザーにクラウドファンディングという新しいサービスを経験させることで、その後に舞い込んでくるプロジェクトへの支援に抵抗感を薄れさせる戦略でもある。

このように他人のアイデアに依存したサービスというのは最初が肝心だ。でないと、マジックランドのIDEASやスクリプトマヌーヴァのレビューページのような悲しい末路を迎えることになる。