手品洋書検索データベース「Conjuring Archive」の個人的使い方


度々、何の説明もなく登場する「Conjuring Archive」というサイトについて、今さらながらも少し紹介しておこう。

端的にいうと、「Conjuring Archive」とは、手品洋書専門の検索データベースのことだ。

Denis Behr’s Conjuring Archive
http://www.conjuringarchive.com/index.php

登録数は日々増え続けていて、2012年5月時点では319冊だったのが、2016年12月には1000冊を超え、2017年7月19日現在では、1216冊に。

1冊あたりの登録情報は次のとおり。

・書籍名
・著者名
・出版社
・発行年
・ページ数
・掲載作品
(+各々のページ数や考案者名、使われる原理&プロット名、たまに一言コメントや関連作品の有無も)

例えば、「memorized deck」で検索してみたとしよう。

すると、128件がヒットし、各作品が時系列ごとに表示される。

一言コメントの欄には左側にちょっとした中身の解説と、右側には改案等の関連作品が添えられ、そちらのページに飛ぶことも可能。

この写真から少し違和感を覚えた人もいるかもしれないが、左端の作品タイトルには太字と細字の2つの表示がある。ほとんどは太字だが、たまに(上から2番目にあるような)細字も含まれる。

経験上だが、この細字には2種類の意味がある。

1. 本の目次にはタイトルが書かれているが、本文中にはタイトルの記載がない場合

2. 単純にタイトルがないものの、どんな内容かを指し示すために仮題が添えられている場合

(レクチャーノートでも度々名前の付いていないアイデアというものがあるが、ここではそれまでもデータベース化されている)

一番右の「Categories」(赤枠)をクリックすると、各掲載作品で使われている原理や技法、プロット名が表示される。

たまに抜けてることもあるが、それは大概そういう単一の原理やプロットをまとめた本から暗黙の了解として抜け落ちてしまっただけだったりする。

(例えば、メモライズドデックの作品集から掲載作品の中身を1つひとつ分類していく際、原理は共通してメモライズドデックとなる。そのため、暗黙の了解としてメモライズドデックという言葉がタグ付けされず、それ以外の周辺領域が分類対象となったのだと考えられる)

次に、右から2つ目にある「CARC」とは、「Conjuring Arts Research Center」の略で、リンクのアイコンがあれば、CARCに蔵書があることがあることを意味している。ただし、そちらは有料だ。

関連記事:世界最大級といわれる手品図書館「The Conjuring Arts Research Center」

では、ここで上から3番目にあるアードネスの「The Expert at The Card Table」(Tricks with the Prearranged Deck)をクリックしてみよう。

すると、緑のハイライトを引いて自動的にその箇所までスクロールして表示してくれる。(ちょっとカッコイイ)

URLにはハイライト表示が埋め込まれているため、SNSなどで友人に自分の賢さを見せびらかしたい時なんかにも使える。

このほか、書籍名、著者、考案者、原理、技法など、ありとあらゆる項目でデータベース化されており、好き勝手にクリックすれば、自然と使い方が覚えられるくらい分かりやすい作りになっている。

運営者の正体

サイトの運営者はドイツのマジシャンであるデニス・ベアー(Denis Behr)。

2004年8月にサイトを立ち上げ、当初は市販のソフトウェアを使ってデータベースを構築していたものの、現在はPHPで自ら記述しているそうだ。

(ピット・ハートリングの近著「In Order to Amaze」に収録された「The Poker Formulas」では、スタックごとに好きなポーカーハンドを自動生成することができるプログラムを開発したりと本業はそっちなんじゃないかな。http://www.denisbehr.de/pokerformulas/

また、共同運営者として、Lorenz SchärやHarapan Ongが協力していて、たまに英語やドイツ語以外の本が入ってくるのはそのせい。

よくある質問FAQページ」によれば、寄贈や貴重な写本のコピーはお断りだそうで、サイトを支援したい人はデニスの本を買うか、PayPalで直接寄付してほしいとのこと。

個人的な使い方

さて、このサイトの存在を知ったとしても、中には「そんな目次程度のことしかわからないんだったら、あんまり使えないじゃん!」と思う人もきっといるはず。

最初は私もそうだった。

だが、あるテーマを模した、ある原理を使った作品について調べたいとき、このサイトは本当に役に立つ。

個人的な使い方としては、ある原理から他の作品ではどのような演出があるのかをタイトルや一言コメントから推理して妄想を膨らませ、それらを刺激したりしている。

少し回りくどい方法のように聞こえるだろうが、色々な作品の背後にある原理や技法、プロットを垣間見るうちに知らない用語を時々目にすることがある。

まるで、事典をパラパラをめくっていると、ふいによくわからない単語が目に飛び込んでくるような感覚だ。そして、それついて調べているうちに、徐々に興味が沸いてくる。

http://www.conjuringarchive.com/tree.php?cat=1065

私にとって、このサイト一番の魅力というのは、やはりそういう物言わぬ教科書みたいな部分にあると思う。それこそ、何らかの技法や原理を知るきっかけってのは案外少ない。

技法系のDVDは無駄にあるくせに原理ものを集めた媒体はあまりない。技法よりも数が限られているからだと主張することもできるが、それでもなんだかひた隠しにし過ぎだと思う。

日本語では、セルフワーキング事典がそれにあたるのだろうが、それでもそれ1冊しかない。あとは原理の明らかになっていない誰かさんの作品集をランダムに買って初めて知るぐらいだ。実に効率が悪い。

学習方法にはどんなものであれトップダウンとボトムアップがある。この場合、トップダウンは作品で、ボトムアップは技法や原理だとしよう。

技法系はトップダウンとボトムアップの両方があるなか、原理系はなぜかトップダウンしかない。原理系はそれ1つで作品として昇華させやすいみたいなイメージがそうさせているのかもしれないが、だから何だってんだ。教材として、商品として、「これを読んで組み合わせれば、君も立派なクリエイター!」なんて謳い文句があってもいいと思う。

まるで、原理ものなんて1, 2個知れば、それでいいだろうみたいなそんな(クソみたいな)考えがはびこっているかのように思えてしまう。

(単純に誰もそこまで思い至ってないだけかも)

とまあ、そんな問題を好きに解消してくれるという意味でデニスは素晴らしい。

(もちろん、その原理や技法が具体的にどんなものなのかを教えてくれるわけではないからこそ「物言わぬ教科書」なのだが)