ダレン・ブラウンが選ぶ「心理学や懐疑論に関する推薦図書リスト」


ダレン・ブラウンのホームページでは、自身のスキルや知識に関する41冊の推薦図書リストと2本の論文が公開されている。自著「メンタリズムの罠」(Tricks of the Mind)の中でも、そうした分野について詳細に掘り下げられていて、ここでは主にその最新版が列挙されている。

The Core | Derren Brown
http://derrenbrown.co.uk/the-core/

2018年4月上旬、大々的なサイトデザインの変更に伴い、現在こちらのページは閲覧できなくなっている。

以下では、2017年7月11日時点の邦訳版も合わせて調べてみた。現時点では、19/41タイトルが邦訳されているようだ。

また、推薦図書にはそれぞれダレン・ブラウンによる一言コメントが添えられている。

HYPNOSIS(催眠術)

私のキャリアは学生時代に催眠術師として活動するところから始まった。特にセラピストとして生計を立てることには全く興味がなかったが、大の大人をバレリーナのように躍らせたりしてからは催眠や暗示の可能性を模索するようになっていた。

Definitions of Hypnosis and Hypnotizability and Their Relation to Suggestion and Suggestibility(PDF)

Zoltan Dienes教授とStuart Derbyshireらのチームによって書かれた「催眠と被暗示性の定義に関する矛盾やその変遷」に関するレビュー論文。

(レビュー論文とは、過去に行われた先行研究をまとめ上げて、あるアプローチをもって現在この研究分野では何がわかっているのか、どのような課題があるか等を整理した論文のこと)

The Contrasting Role of Higher Order Awareness in Hypnosis and Meditation(PDF)

同じくDienes教授とDerbyshireによって書かれた「催眠と瞑想の関係」について考察したレビュー論文

Hypnosis research papers (サイトページ)

催眠関係の科学論文のリスト

The Oxford Handbook of Hypnosis Theory, Research, and Practice

催眠に関する最新研究から治療への応用性について包括的にまとめられた一冊。

Jay Haley On Milton H. Erickson(Jay Haley)

一見して非凡な男と、彼の方法についての面白い読み物だ。もっとも、眉に唾をつけて読むに越したことはない。

MAGIC(マジック、手品)

催眠術を学んだ後、私はスライハンドマジックに興味を持った。卒業後はブリストルのレストランやカフェでクロースアップマジシャンとして10年間過ごし、パーティーや企業イベントにも呼ばれた。

催眠術に手を出した後にマジックに出会ったため、自然と人心操縦や読心術系のマジックを扱うメンタリズムへと枠を広げた。当時、メンタリズムはあまり浸透しておらず、イギリスでもメンタリストとして生計を立てている人は4, 5人ほどしかいなかった。

そんなこともあってか、私は催眠や暗示、そしてカードマジックを組み合わせ、独自のスタイルを確立した。当時の目的は読心術師になることでも、カードマジックをすることでもなく、人間の思考を扱うことが本質的に面白いものだという前提あってものだった。

Mark Wilson’s Complete Course in Magic(Mark Anthony Wilson)

私がマジックを始めるきかっけになった本。この分厚い本はカードやコインを使ったクロースアップマジックから自宅でできるステージマジックまで全てを網羅している。

The Royal Road to Card Magic(Jean Hugard)

プロの技を身につけたいと思っているのなら、まずこの本から始めるべきだ。

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※マジックの背後にある理論的な部分に興味がある人は次の2冊を薦めたい。

Modern Enchantments: The Cultural Power of Secular Magic(Simon During)

奇術文化史

脳はすすんでだまされたがる マジックが解き明かす錯覚の不思議(スティーブン・L・マクニック)

脳のはたらきに関する科学的な再現性について過度に説明しようとする傾向があるものの、マジックへの神経科学的アプローチは読んでいて実に楽しい。それだけでなく、マジックの世界の裏側を垣間見ることができたり、文章説明だけでは心苦しい読者のために動画リンクが添えられている。

MEMORY(記憶術)

を覚えたりと、最小限の労力で膨大な情報を覚えることのできる、このテクニックは大変興味深い。人によっては、買い物リストを覚えたり、52枚のトランプを覚えたり、さらにはマジックに必要な記憶事項でも応用することができる。それだけでなく、記憶術の歴史はまさに錬金術のそれと同じく、魅惑的で人々の心を惹きつけて止まない。

How to Develop a Super-power Memory (Harry Lorayne)

これは私の自宅にある1940年代版の本から何度も再版されている古典的な著作だ。ロレインは大きな成功を収めたマジシャンであり、記憶術のエキスパートでもある。この本には、私の本で紹介した原理がより詳細に網羅されている。

How to Develop a Perfect Memory(Dominic O’brien)

オブライエンは、おそらく今日における世界最高の記憶術のエキスパートであり、記憶について何冊もの著作を書いている。これはおそらく実用書として最も適した本だ。

Your Memory: How It Works and How to Improve It (Kenneth L. Higbee)

記憶術と記憶そのものの性質への考察がバランス良く整った本。著者のHigbeeは、記憶力の向上に関する特定の分野についてはかなり正直に、かつ実用性に重きをおいて書いている。強くオススメできる本。

記憶術(フランス A. イエイツ)

記憶のテクニックと記憶術の歴史に関する素晴らしい著作だ。実用的なアドバイスはほとんどないが、曖昧で深遠なテーマについて、魅力的な見解を示している。

マッテオ・リッチの記憶の宮殿(ジョナサン・スペンス)

もし君が私と同じくらい記憶の宮殿という概念に対して白昼夢に襲われるほど夢中になっているとしたら、これは最高の著作だ。この本も「How to 本」ではなく、上質な歴史的、かつ学術的な本。この本を読めば、記憶の宮殿というシステムに関して、ただならぬ恩恵をもたらすだろう。

PSYCHOLOGICAL & SOCIOLOGICAL EXPERIMENTS(心理実験&社会実験)

番組を制作する際、臨床では不可能だとされる方法で、心理実験を再構築したり、時には再発明することは私にとって何よりも楽しいことだ。テレビ番組を制作する場合、法的及び倫理的なガイドラインに沿っているものの、これは臨床現場でいわれる倫理的ガイドラインとは別物だ。

普通なら心理実験の計画段階でその内容が学会内で物議をかもし、最悪それが被験者にバイアスとなって現れることすらある。一方、テレビ番組ではそのようなムードは逆に歓迎だ。しかも、画面上では明らかに深刻な結果として取り扱われることはなく、しっかりとした知性さえあれば、議論のための良いきっかけになる。

The Individual in a Social World: Essays and Experiments(Stanley Milgram)

この本は彼の名前と同義語にもなったミルグラムの有名な服従実験(私の番組「The Heist」で仕掛けた電気ショック実験の元ネタ)に関する報告書。社会心理学の金字塔であるという事実を差し引いても、ミルグラムの研究には実験における魅力的なアイデアがたくさん詰め込まれている。これは実に素晴らしい本で、読みやすい。ドッキリカメラに関する章もある。

心は実験できるか―20世紀心理学実験物語(ローレン・スレイター)

好きになるのに時間のかかった本。彼女の小説家のような描写スタイルはテーマとなる学術的な話とは簡単には相対さない。最初、私はそれを身勝手かつ危なっかしく、愚かだと感じたが、しばらくして彼女の良さがわかってきた。特に中毒に関する章には驚くほど心を動かされた。

この本では、100年近く前に実在した悪名高い実験について、まるで小説家のように語ることによって、そこに命を吹き込んでいる。そういう意味でこれはかなり衝撃的で楽しい読書体験をもたらしてくれる。

BODY LANGUAGE(身体言語)

この分野では、誇張や過度な一般化がまかり通るなかで、以下の本を挙げたい。

嘘と欺瞞の心理学 対人関係から犯罪捜査まで 虚偽検出に関する真実(アルダート・ヴレイ)

嘘の検出に関する素晴らしい本だ。ヴレイはこのテーマにおける真のエキスパートであり、優れた実験家だ。彼の本は豊富な調査資料とともにディテールがしっかりしている。学生や学者だけでなく、嘘を見抜くプロにも薦められる本で、このテーマについて比較的数の少ない一冊だ。

The Truth About Lying: How to Spot a Lie and Protect Yourself from Deception(Stan B. Walters)

嘘を見分けることをより身近に感じられる本で、多くの人を惹きつけると断言できる。ただし、この分野は多くの一般書よりトリッキーで捉えどころがないため、気をつけなければならない。

⇒まだ邦訳は出ていないものの、こちらのサイトでは、本書から抜粋した「Psychology Today」の翻訳記事が載っている。

巧妙にウソをつくための10箇条 | ライフハッカー[日本語版]
https://www.lifehacker.jp/2015/04/150401lier_10_point.html

うなずく人ほど、うわの空―しぐさで本音があばかれる(ピーター・コレット)

ボディ・ランゲージに関する包括的なガイドブック。初心者には楽しめる一冊。

What the Face Reveals(ポール・エクアン&エリカ・L・ローゼンバーグ)

かなり多くの問題が取り上げられている。しかし、人間の顔にあるあらゆる筋肉の動きを体系化しようというエクマンとローゼンバーグの研究によって、そのシステムで訓練された人は微表情を見抜く超人的能力を身につけることができるようになった。

例えば、本来の人間の感情には結びつかないような、すぐに消えてしまうような痙攣や満足感。この本は学術書であり、家で学ぶような実用書ではないものの、熱心な読者にはオススメだ。

表情分析入門―表情に隠された意味をさぐる(ポール・エクマン&W・V・フリーセン)

これはエクマンの研究を理解するための入門書のようなもので、人の心を読む感性を磨くための練習問題がたくさんある。優れものだ。

RELIGION, SCEPTICISM & THE PARANORMAL(宗教、懐疑主義、超常現象)

私は無神論者であり、すべての事象における懐疑論者だ。とはいえ、それは反ユダヤ主義と同じではないし、ただ信じていないだけで冷笑主義とは違う。ただ証拠に関係なく信じることを理性が拒否しているに過ぎない。

▼▼宗教▼▼

神は妄想である―宗教との決別(リチャード・ドーキンス)

著者の肩書きが何であれ、世界有数の、かつ最も魅力的な環境生物学者であり、サイエンスライターだ。

これは無神論を擁護する大変重要な本であり、信仰や宗教、神の証明に関するあらゆる側面について体系的に論じている。試練と称して自分の信仰心に挑戦してみたいと考える知性ある人はぜひ読んでもらいたい。不可知論に逃げた、中途半端な信仰で後ろめたく思う人も含めて、多くの人々にとって人生を変える挑戦だ。

私のような無神論者にとっては、宗教的信仰の誤謬を包括的かつ説得力をもって論じられていて、読むのがやめられなくなる素晴らしい本だ。

悪魔に仕える牧師(リチャード・ドーキンス)

ドーキンスのよく知られた科学的研究にあまり関心のない人にとっては、この本は様々なテーマについて書かれた素晴らしいエッセイ集として読める。宗教やその他の超常現象に頼ることなく、この世の喜びに裏打ちされた議論である。私が初めて読んだドーキンスの著書でもあり、これによって彼の大ファンとなった。

Against All Gods and To Set Prometheus Free(A. C. Grayling)

Graylingは懐疑主義と無神論における温かみのある哲学的な語り口を持ち、この2冊の薄い本は彼の作品の中でお気に入りだ。

宗教は必要か(バートランド・ラッセル)

合理主義者による社会に多くの影響を与えた古典。懐疑主義関連での必読書。

誰が新約聖書を書いたのか(バートン・L・マック)

新約聖書の成り立ちに関する読み応えのある大作。読み始めたとき、私は若干の信仰を持つ人間だったが、読み終わったときには私の信仰はボロボロになっていた。聖書が歴史ではないと気づいてしまうと、キリストの復活を神が存在することの根拠として挙げることができなくなり、自分の信じていた現実がすべて崩壊してしまう。秀作だ。

The Secret Origins of the Bible(Tim Callahan)

比較神話学から聖書を考える、興味深い著作。ただし、歴史について知っておくべきことを理解するには先程に挙げたマック著「誰が新約聖書を書いたのか」の方が良い。

Gospel Fictions(Randall Helms)

新約聖書に関してこれまで言われてきた数々の指摘を概要説明してくれる手引書。

The End of Faith(Sam Harris)

現代における宗教的信仰の危険性について論じている良書。ドーキンスの「神は妄想である」と一緒に読むといい。ハリスは素晴らしい作家であり、本書に書かれていることには説得力があるが、若いイスラム教徒がテロ行為に関わるようになる理由の多くについては触れていないと思う。

グローバル時代の宗教とテロリズム(マーク・ユルゲンスマイヤー)

もし先程のHarrisの著作が気に入り、同様のテーマについてもっと読みたいという人がいたら、次はコレだ。

解明される宗教 進化論的アプローチ(ダニエル・C・デネット

宗教の崩壊を論じた大作。だが「神は妄想である」ほどは鮮烈でもなく、読むのをやめられないほどでもないように思う。

▼▼超常現象&疑似科学▼▼

超常現象の科学 なぜ人は幽霊が見えるのか(リチャード・ワイズマン)

リチャード・ワイズマンは超常現象や運の背後に隠された科学について深い洞察をもたらすような著書を多く執筆している。その中でも、これは超常現象を信じてしまう理由について素晴らしい知見を与えてくれる。

Deception and Self-deception(リチャード・ワイズマン)

この本では、特に超能力者の存在にアプローチしている。

なぜ人はニセ科学を信じるのか〈1〉奇妙な論理が蔓延するとき&〈2〉歪曲をたくらむ人々(マイケル・シェーマー)

シェーマーは信じるということの本質を非常によく論じられている作家であり、上記の2冊を読んでみる価値がある。

人はなぜ迷信を信じるのか―思いこみの心理学(スチュアート・A・ヴァイス)

シェーマーの「なぜ人はニセ科学を信じるのか」の代わりに読むならこちら。本書もシェーマーの著作も重要な点が網羅されている。

Snake Oil And Other Preoccupations(John Diamond)

著者がガンで苦しんでいた間に書かれ、その最後の数ケ月間で代替医療に強烈な一打を与えた一冊。

How Mumbo-Jumbo Conquered the World(Francis Wheen)

迷信や不合理の台頭を、社会政治的背景とともに取り上げられている。必読書。

The Psychology of the Psychic(David Marks)

ユリ・ゲラーを取り上げ、ああいった類を人々が信じるのはなぜなのかということをはじめ、疑似科学を巡る好奇心を刺激する話題が網羅されている。

懐疑論者の事典(上)&(下)(ロバート・T・キャンベル

疑似科学に関するナンセンスな話について取り上げた楽しく読める本。

コールド・リーディング―人の心を一瞬でつかむ技術(イアン・ローランド)

コールド・リーディング(人やその人の亡くなった親戚についてあらゆることを語ってみせる、霊能者が使うテクニック)についての本はいくつかあるが、ローランドによる本書は最高だ。

Confessions of a Medium(絶版)

この本は探し求め続けるべきだと思う。同じように「fraudulent mediums」で検索しても代わりとなる結果が得られるだろう。ヴィクトリア朝時代に交霊会を開いていた霊媒の真相を暴露している本は数々あるが、本書では現代のニセモノに関する手引書である。

The March of Unreason(Dick Taverne)

医学と農業の世界における反科学ロビー活動の危険に対する素晴らしい一冊。有機農業とGM農業の現実について特に有益な知見を与えてくれる。