世界最大級といわれる手品図書館「The Conjuring Arts Research Center」


2017年4月下旬、北海道の帯広に「マジック・ミュージアム」という国内初のマジック専門の博物館がオープン予定となっている。「マジック・ミュージアム」では、マジックの関連書籍が英語・日本語問わず展示されていて、その数はなんと約1万5000冊にも上るそうだ。

こう聞いて、私は最初、マジック専門の私立図書館である「The Conjuring Arts Research Center」(CARC)と良い勝負じゃないかと思った。

ところが、このCARCについて言及しても、いまだ日本語で取り上げられたサイトがないようなので、あまり多くの人には伝わらないと思う。

そこで、今回は世界最大級といわれるマジック専門の私立図書館について簡単に紹介してみるしよう。

「Conjuring Arts Research Center」とは何か?

「Conjuring Arts Research Center」(CARC)とは、ニューヨークにあるマジックに関する様々なプロジェクトを推し進める非営利団体で、その中で最も力を入れているプロジェクトこそがマジック専門図書館として保管・運営・維持することだ。

厳密にはマジック以外にも腹話術やジャグリングに関する資料も取り揃えられており、マジック専門というよりはマジックを中心としたパフォーマンス専門の図書館といったところ。(「Conjuring」には「手品をする」という意味以外に「ジャグリングする」という意味が含まれている)

所蔵資料は2012年時点で約1万5000冊にも上り、現在も増加中。

ただし、「図書館」といっても、CARCは自由に貸出できる図書館(lending library)とは異なり、あくまで参考調査専門の図書館(research library)というのがポイント。つまり、一般的な図書館というよりはマンガ喫茶のように建物内で閲覧することのみを前提としている。

アレックス・ストーンの「人の心を手玉に取る技術」(P.289-298)によれば、CARCは完全予約制で少なくとも一週間前から予約しなくてはならず、来館時には常にスタッフが監視し、また閲覧時にはスタッフの許可が必要だそうだ。

ここまで徹底する理由は15世紀に書かれた未出版の文献やS・W・アードネスが1902年に発表した「Expert at the Card Table」の初版本、さらにはフーディーニが当時使っていた手錠やポスターまでもが所蔵・保管されているためだ。

驚くべきは、所蔵されている文献は英語に限らず、スペインやロシア、スウェーデン、日本なども含まれているということ。そのため、現地では来館者のために翻訳家が常駐しているようだ。

蔵書検索システム「Ask Alexander」

Ask Alexander」とは、電子化された延べ250万ページ以上のマジック資料から特定のキーワードを抽出するなどして、瞬時に情報を引き出すことのできるオンラインデータベース。

データベースの利用には会員登録が必要だが、検索するだけなら登録の必要はない。(その代わり、ヒットしたキーワードの前後の文しか閲覧できない)

会員登録には無料会員(Free)と有料会員(Bronze, Silver, Gold)に分かれている。

無料会員の場合、以下の特典がつく。

・1万5000ページ以上のマジック資料のアクセス権
・検索システム「Ask Alexander」の利用
・Bookshelf(お気に入り)やNotes(特定のページに考えたことをメモして保存する機能)を搭載
・Google翻訳と連携し、特定のページを翻訳することが可能

無料会員の登録自体は結構簡単で、「Ask Alexander」→「Alex Info」→「Get Your Free Account Now!」をクリック。

名前、ユーザー名、メールアドレス、パスワードを記入し、「Sign Up」をクリック。

すると、登録したメールアドレスにCARCからメールが届く。そして、指定のURLをクリックし、著作権保護に関する規約に同意する手続きに踏むと、満を持して登録完了となる。

有料会員の場合は「Bronze」「Silver」「Gold」とランク(価格)が高くなるにつれ、閲覧できるページが増えたり、様々な特典が追加されたりしていく。特に「Bronze」に契約すれば、Sphinx, Linking Ring, MUM, Mahatma, Hugard’s Magic Monthlyをコンプリートできるそうで、これらは「Lybrary.com」では手に入らない雑誌類を考えると、つい手を出してしまいたくなる価格設定ではある。

ちなみに、「Ask Alexander」では、検索画面がGoogle並みにシンプルに設計されているように見えるが、ちゃんとインターネットの検索エンジンと大して変わらぬ高度な検索システムを有している。例えば、ページ内検索、除外キーワード、タイトル、著者名、発行年、言語などをヒントに検索結果を絞り込むことができる。

こうした詳しい操作方法については、YouTubeにてCARCの公式アカウントがいくつか動画をあげてくれている。

その他のプロジェクト

CARCでは、図書館の運営以外にも様々なプロジェクトがある。

例えば、ショップサイトでは、絶版本を電子書籍化して単品購入できるようにしたり、アードネス本をポケットサイズ版で製本したものを販売したり…。時にはデックデザインをプロデュースすることもある。特に日本では、「アスク・アレクサンダー」と「ビー・アードネス スミス・バックNo.2」が入ってきている模様。

一体、誰が作ったのか?

創設したのはビル・カルシュ(William “Bill” Kalush)という名の人物。表舞台に立つようなマジシャンとは真逆の存在で、デビッド・ブレインの番組製作の多くに携わっている。

どのようにして、ここまで財を成したのかは不明だが、図書館にある蔵書の多くは彼の個人資産から半永久的に貸し出されたもの。(中にはあるマジックコレクターが亡くなった際に故人のコレクションが寄贈されたものもある)

上記の画像はポール・ウィルソンが監督したドキュメンタリー映画「Our Magic」にも出演した際のもので、バックに映る場所こそまさしくCARCの内部。

これ以外にもCARCの内部を紹介した動画はYouTube上にいくつかのだあるが、特に下記の動画に関しては、内部の様子を最も色濃く映し撮っているようだ。動画自体、3分ほどしかないものの、アレックス・ストーンの本の中でしかその存在を知らなかった人はぜひとも見てみてほしい。

Video Streaming Software

いずれ観光としてニューヨークに訪れることがあれば、1度は足を踏み入れてみたいものだ。