【素朴な疑問】なぜジョーカーを抜くのか?


マジックをするとき、もしくは誰かのマジックを見たとき、よくこんな言葉を耳にしたことがあるはずだ。

「ジョーカーは使わないので抜いておきますね」

ここでクエスチョン。なぜジョーカーを抜く必要があるのか?

あなた自身、この問題について考えてみてたことがあるかもしれない。

これについて少し調べてみると、過去に「The Magic Cafe」で似たテーマが繰り返し取り上げられていたことがわかった。

Shoud you take the Jokers out of your deck when performing tricks? | The Magic Cafe
http://www.themagiccafe.com/forums/viewtopic.php?topic=65592&forum=2

Jokers? | The Magic Cafe
http://www.themagiccafe.com/forums/viewtopic.php?topic=236880&forum=2

まとめると、次のような理由が挙げられた。

・スプレッドしたときに綺麗に見えるから
・カード当ての際にジョーカーが選ばれてしまうと、観客から疑われるから
・普段から52枚でファローシャッフルしてるから
・ジョーカーを抜いている間にカルやグリンプスできるから

もちろん、人によって、この定番ともいえるセリフを無駄なものとして捉え、事前にジョーカーを抜いておいたり、あるいはジョーカーを使った手順を好んで行う人にとっては身近なセリフでもあるだろう。

とはいえ、「ジョーカーを抜き取る」という動作の中には、他にある心理的なサトルティが隠されている。

それは「なぜジョーカーを抜く必要があるのか?」という問いを「なぜジョーカーを抜くということを観客に知らせる必要があるのか?」という言葉に置き換えると、想像しやすいかもしれない。

そして、そのサトルティとは、デックからジョーカーを抜くことで、観客はそのデックが普通のレギュラーデックだと思い込ませるというものだ。たしかに、元からそれがレギュラーデックなら、前述のようにどうでもいいことだろうが、それがスタックやギャフデックであった場合には話は別だ。特に2枚のジョーカーを1枚ずつ、それも別々の場所から引き抜いた場合、デックがあらかじめ混ぜられた、もしくはそれが新品ではないということを観客に悟らせることができる。

実のところ、このアイデアの初出がどこなのかはいまいちわかっていない。

2009年に発売されたジョン・ロビック(John Lovick)の「I dream of Mindreading」では、観客にギャフデックをレギュラーだと思わせるためにジョシュア・ジェイ(Joshua Jay)が「ジョーカーを抜く」というアイデアを提供しているが、その中ではあくまでジェイ独自のアイデアとして特にクレジットされていない。

ところが、2003年に発売されたメンタリストのリチャード・オスタリンド(Richard Osterlind)の「マインドミステリーズ 第2巻」(日本では2010年に日本語字幕版が登場)に収録された「カードコーリング」の解説において、彼はこんなことを言っている。

「ジャンボデックなどカードの大きさにかかわらず、私はいつもジョーカーを最初に抜くようにしている。これによって、観客はレギュラーデックだと思い込んだ。もちろん、これは私の勘違いかもしれないけれど、そんな感覚があっていつもやってる」

「マインドミステリーズ 第2巻」では、彼が考案したシステムデック「ブレイクスルーカードシステム(Breakthrough Card System)」についてDVD一本丸々使って詳細に解説されている。興味深いことに、このアイデアは同年(2003年)に発売されたレクチャーノート「Breakthrough Card System 20th Anniversary Edition」にはなぜかその記述がみられなかった。「ブレイクスルーカードシステム」の発表年である1983年版のレクチャーノートに同じの内容が記載されているかどうかは定かではないが、彼の言葉から察するに、オスタリンド自身もそのちょっとしたアイデアの初出について詳しくは把握していないのだろう。そして、もし彼が全ての始まりだったとしても、ジョーカーなんていうありふれたカードに関するサトルティにしてはいささか遅すぎてではないかとも思ってしまう。

最後に、ジョーカーを抜くという、まるで「これからマジックが始まるよ~!」とでも言いたげな定番のセリフについて、あまり掘り下げられていないのは中々不思議なものだ。スタック関連(システムデック、メモライズドデック、ニューデックオーダーなど)の文献にはそれこそ定番として必ず出てきてもおかしくないサトルティであるはずなのに。

フェーズごとに現象をより難しくしていくあのセオリーもまた然りだが、これもこれで歴史的にはもっと古いアイデアなのかもしれない。