手品専用の共有サイト「AoM」を通して語られるトリックの著作権とその功罪 【後編】


AOMKILLERの登場

AoMの開設からしばらく経った後、同サイトの徹底した秘密主義的体質に疑念を抱いたAoMユーザーCheekyが行動を起こした。彼はAoMとは対照的な共有サイト「AOMKILLER」(通称:AOMK)を立ち上げた。これはAoMの審査からつまはじきにされたユーザーに向けた受け皿的存在であり、彼自身、コンテンツはより多くの人に共有されるべきだと考えたことが発端となった。そして、「AOMKILLER」という言葉通り、AoMからダウンロードしたコンテンツをそっくりそのままアップロードするなどして一時はどっちがどっちのサイトのか見分けがつかなくなることもあったそうだ。

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ちなみに、エリスもこのサイトの存在についてブログで取り上げており、彼が明かした下記のスクリーンショットによれば、AOMKILLERのトレントファイルは約2000個あり、22TB(テラバイト)分のファイルが共有されていたことがわかっている。

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詰まる所、現在、AoMの管理人が誰なのかは定かではない。クラークの話によると、彼は以前その手の調査に乗り出した際、ミネソタ州メープルウッド在住のある男性が創設者であることを突き止めたそうだが(クラークは自身のブログでその名前を公表している)、その男は既にAoMの運営から手を引いていると証言している。この件に関しては、Business Insiderもミネソタ州の男性にコメントを求めるメールを送ったものの、いまだ返信はないとのこと。

マジックにおける著作権侵害の倫理

おそらく、マジックは他に類を見ないほど著作権侵害をしやすい媒体かもしれない。新しいマジックをつくるには膨大な時間とコストがかかる。それに加え、マジックの市場規模は小さいために製品の1つひとつが比較的高値で取引されている。こうした現状が違法ダウンロードに背中を押すきっかけとなっているといえる。

しかしながら、コピーされたマジシャンたちもそのまま泣き寝入りというわけではない。2012年、アメリカの有名な2人組マジシャンであるペン&テラーのテラーは自身の長年の持ちネタ「Shadows」に似通ったマジックがYouTubeを通して販売されていることを知り、訴訟を起こした。

当時、ベルギーのマジシャン、ジェラード・ダッジ(Gerard Dogge)は「The Rose & Her Shadow」というマジックの演技動画をYouTube上で公開。その後、このトリックを3050ドルで販売するとしたのが発端だった。

本来、マジックは著作権の保護を受けない。ところが、テラーは物言わぬマジシャンとして活動しており、彼の演技では、パントマイムが感情や行動の意思を伝えていた。そしてアメリカでは、こうしたパントマイムやジェスチャーによる表現方法は芸術の一種とみなされ、著作権保護の対象となる。しかも、この「Shadows」は彼が1983年に特許を取得しており、それこそがテラーが考案者たる実質的証拠とみなされ、結果、テラーは勝訴した

これ以外にもデビッド・カッパーフィールドの代表作「Flying」がフランスのマジシャンが盗用したとして法廷で争ったケースやロバート・ライス(Robert Rice)がテレビ局FOXを相手取り、マジックの種明かし番組を訴えるなど似たような判例はいくつもある。

セミプロのエドモンドは言う。「プロにはプロの、アマチュアにはアマチュアのコミュニティがあるが、どちらのグループにもこうした違法ダウンロードに肯定的な人種はいると思う」

そして、これに賛同するかのようにAoMの現メンバーのルーシーは次のようにコメントしている。「AoMはただの共有サイトじゃない。マジックの合法的なビジネスに多少損害を与えているのだろうが、これはあくまでごく小規模な会員サイトでしかないんだ」

ピーターもそれに続ける。「もしあなたが地元のマジックサークルに入っていたとしたら、きっとそこでも似たようなことをやっているはずだよ。本やDVDで培ったマジックのネタをお互いに教えあったりしているようにね。言うなれば、これも海賊行為であり、著作権侵害なんだよ。他人の技術を盗んでいるわけだからね。ただ人間が物理的にそこに集まってやってるかどうかで、違いはそんなにないんだよ」

マジック業界の新たな脅威:コピー商品

AoM以上にマジック業界では、さらなる脅威が広がっている。昨今のマジック業界では、ギミックと一緒に販売されることが多くなっている。ギミックはオンライン上では共有できない秘密であり、仮にその説明書やDVDが違法にアップロードされたとしても、ギミックなしではほとんど意味がない。

ところが、こうした動きによって思いもしない変化が生じてしまった。それはマジックそのもののコピー商品が出回るようになったことだ。それは主に中国による安価な大量生産が端を発している。

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これについてエリスは次のように語っている。「最初は商品名やパッケージを少し変えたりする程度だったが、最近は完全にコピー商品として市場に出回っている。オリジナルが60ドルで販売されていたとしたら、コピー商品は8ドルで取引されているんだ。偽造業者の中には広告用の動画まで丸パクリするんだから酷いもんだよ」

こうした事態を受けてエリスは「MagicFakers」というコピー商品を監視するサイトを立ち上げた。だが、状況は思っていた以上に深刻だったようで、毎日10~20個ものコピー商品が登場し、個人で同サイトを運営し続けることは難しいと判断。現在では、更新が途絶えている。

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インターネットがマジック業界にもたらした功罪

「こうした海賊行為はマジシャンたちの暮らしに脅威をもたらす一方で、それがマジック業界の発展に寄与した」と、ピーターは主張する。その根拠の1つがカーディストリー(cardistry)の躍進だ。カーディストリーとは、手とトランプだけを使った曲芸で、マジックでいうところのフラリッシュとは別物として扱われている。名前の由来は「card」+「artistry」からきている。
【カーディストリーの名を世に広めたとされる動画がコチラ】

ピーターは言う。「海賊行為によって、現代のマジックは急速な進化を感じる。インターネットの存在により、あらゆる人々に簡単にマジックが触られるようになったんだからね。そして、カーディストリーが世間で一気に流行ったのもネットのおかげだ。90年代初頭はカップアンドボールやトランプ、ハンカチといったマジックの多くは退屈そのものだった。でも、それがやがて多くの人の目に触れられるようになったことで、関心を集め、マジックの世界に新たな技術が取り入れられるようになり、ギミックも含めて様々な分野で日進月歩の発展を遂げていった」

結局のところ、筆者のAoMの調査は部分的な解決に止まる結果となった。AoMのアカウント取得は叶わず、同サイトの正確なコンテンツの把握はいまだ謎のままだ。しかしながら、極めて閉鎖的なコミュニティへの扉はわずかながらも開けた感じがする。問題に取り組む業界人に直接話を聞くことで、世界中の人々に歌手であれ、マジシャンであれ、著作権侵害や倫理、対立関係といった問題といかに戦っているかを伝えることができた。

最後に、今回の一件で、マジックの世界がより魅力にあふれた謎の多い世界だとわかっていただけたと思う。エドモンド曰く、「正直なところ、秘密はそう多くない。ほんの少しのノウハウさえあれば、どんなことでもなんとかなるものだ。そして、その秘訣とは、絶えず心を開いておく(=empty chest)ことだ」