手品洋書を読み解く3つのヒント+必須単語150選


マジックはお金で買える。それは厳然たる事実だ。

そのため、金さえ払えば、この世界には秘密なんて何一つないように感じてしまうことがある。でも、秘密はある。金では買えない秘密が。

それは未発表のアイデアだとか、言葉では共有できない演技理論だとかそういう話じゃない。限られた人間にしか手にすることのできない大いなる秘密…。

すなわち、それは「言葉の壁」だ。

これは万国共通の話だと思うが、特に日本人の場合、英語にもっぱらアレルギーを持っている人が多い。

ボブとメアリーの会話文ならまだしも、レクチャーノートを英語で読むなんて不可能だと。

たしかに、DVDなら映像である程度手順を理解することはできるだろうけど、英語が苦手な人からすれば、マジックのレクチャーノートなんて難解な秘密文書とそう変わらない。

少なくとも、以前の私はそう思っていた。

読解力の詭弁

数年に1度の学力テストで「小中学生の読解力が下がっている」なんていう報道を目にするたびに、こんな詭弁を思い出しては、一人でよく笑っている。

「読む内容に興味がなければ、誰も真剣に読むわけがないだろ!」

その辺にいるサラリーマンにシェイクスピアのハムレットを渡して「僕には読めないな~」と言ったら、そいつは読解力がないのか?

また、小学生がひも理論の本に夢中になっているからといって、そいつはIQが高いと一様に断じてもいいのか?

逆に言えば、普通の小説が全くと言っていいほど、読めない、集中できない小学生がいたとして、その子は国語力が足りないと言っていいのか?

もしかしたら、SF好きが高じて、理論物理学や天文学に関する本なら、普通に読める、普通に理解できる、”普通の子”かもしれない。

こうした主張は「読解力」という言葉を好きに解釈し直した、ただの詭弁だ。

だが、この解釈はマジック本を英語で読む際、ある種のモチベーションとして働きかけることができる。

第一に、読む内容に興味がある。ボブとメアリーのくだらないメールの内容よりも、そのマジックを知りたいという気持ち(=内発的モチベーション)の方が数倍強いのは明らかだ。英語の勉強だからといって、意味もなく辞書を引く流れ作業よりも興味ある内容に熱意を燃やす方がずっと楽しい。しかも、そこに書かれている内容は多くの日本人が知らぬ秘密でもある。

第二に、日本語のマジック本と同様、現象説明や手順説明には、無駄な話は一切入ってこない。カードを引いて、デックをシャッフルして、またカードを配って…。そういう意味では、何かの理論やコラムでも読もうとしない限り、ことカードマジックにおいては、中学2年の英語で止まっていると評してもいいかもしれない。(いや、不定詞とかあるか…)

第三に、出てくる単語や用法は大体決まってくる。それが特定の分野だったりすると、使われる単語はより狭まる。しかも、出てくる単語は普段使っているマジック用語とかなり似通っているため、感覚的に難易度が下がった印象を覚えることで、学習意欲を促してくれる。

現象や手順説明には欠かせない3つの基礎表現

とはいえ、具体例を示さずに意気揚々と語ったとしても、何もわかったものではない。ここまでは単に自信を育む一過程に過ぎない。

以下では、初めて英語のマジック本を手に取った際、確実に混乱を招くであろう、3つの基礎表現について解説しよう。

1. 観客に指示を与える定型表現

マジックでは、観客に必ず何らかの指示を与える。しかし、実際の手順書では、「観客はデックをカットする」とか「カードを抜き出す」とか、書き手によって違いはあれど、ある意味日本語で書かれたレクチャーノートよりも簡素な文章が多い気がする。

言い換えれば、それは文章が定型化されているといってもいい。ここでは、観客に指示を与える代表的な用法を書き出しておこう。

例①:Ask a spectator to shuffle the deck. → 観客にシャッフルしてもらう(直訳:観客にデックをシャッフルしてもらうよう頼む)

例②:Have a spectator select a card. → 観客にカードを選ばせる(Have+主語+動詞の原形~=~してもらう)

2. Say it is QC.

手順説明の際、唐突に「Let’s say it is QC」「Say the card is QC」なんて文章が出てくる。

これは「ここでは、クラブのQだったとしよう」という意味で、いわゆる例示だ。普通なら、「for example」を使いそうなものだが、経験上、あまり出くわしたことがない。

他にも、「Assume she names six of hearts.」 (直訳:ここでは、観客がハートの6と言ったと想定しよう」なんて言い方もある。

よく文章を訳すのに必死になりすぎて、例え話とかメタファーをそのまま理解しようとして訳が分からなくなることがあるので、一応取り上げてみた次第。

3. 「You」とは誰か?「He」とは誰か?

現象説明に「You」と出てきたら、一瞬誰のことか迷うと思う。これは観客のことではなく、演者(=読者)を指している。

例:You find two selected cards from a shuffled deck. → 演者は混ぜたデックから(先程)選ばれた2枚のカードを見つけ出す。

現象説明では、演者は自分のことを「you/your/he/his/him」で表し、観客は「he/she」のいずれかとなる。(sheが出てきたら確実)

ただし、時折、演者のことを「He/his」と表すことがある。その場合の見分け方は何か?と問われると、結構困る。なぜなら、ふしぎと「he」が演者のことか、観客のことなのか意識したことがないからだ。内容を理解していれば、考えるまでもない。

とはいえ、「その内容の理解が難しいんだろ!」と誰かに叩かされそうなので、実際に次の文に目を移してほしい。

例:He asks the spectator to shuffle the deck.

この場合、「He」が観客を指しているのではないことは一目瞭然だと思う。

では、今度は2つの文に分かれた、いわゆる前後の文脈から読み解いてみてほしい。

While the performer turns his back, the spectator gives it a shuffle. He takes the top quarter of the deck.

ここで言う「He」は明らかに観客を指している。理由は次のとおり。

雑な訳:演者は背を向ける。観客はデックをシャッフルする。その後、観客はデックから4分の1程度取り上げる。

つまり、演者が最初に背を向けた状態で演技が進行しているのだから、その後のデックの操作が観客に委ねられるのは当然の話ということだ。

こうして考えてみれば、誰がyouで、誰がheかはそれほど気にする問題でもない。

必須単語リスト155

辞書にはたくさんの意味が書かれているが、どれがその文に適しているかはパッと見、わからない。これこそが洋書読解のモチベーションを妨げる大きな要因だと思う。

以下の単語リストは主にカードマジック本で頻出する英単語をまとめたものだ。前述のとおり、プロット名や技法類は日本語で普段使われているものと変わらないため、基本単語以外は載せていない。

また、私は主にセルフワーキング系のレクチャーノートぐらいしか目を通したことがないため、単語リストもそこで使われる内容に偏ってしまっている。

でも裏を返せば、セルフワーキング系なら、一網打尽できるはずだ。

【A】

advertisement card 広告カード

among 以内、間(例:be among the top sixteen→上から16枚の間にある)

angle (名)角度  (動)傾ける

any 好きな、任意の

apparently 見せる

arrange セットする、並べる、置く

aside 横に、脇に(へ)

aside but in full view 見える場所に

ask 尋ねる、聞く

assist 手伝う

audience 客席、聴衆

a.k.a. 別名

【B】

balance of the deck 残りのデック

business card 名刺

bottom ボトム

bottom card ボトムのカード、一番下のカード

break (名詞)ブレイク(例:get/hold a little finger break→小指でブレイクを作る、ブレイクする)

bring 移す

borrow 借りる

【C】

CHaSeD club-heart-spade-diamondの略。特定のスタックに並べる際、スートの順番をクラブ→ハート→スペード→ダイヤにすること

choose 選ぶ

chosen 選ばれた、観客の指定した

classic 古典的な、定番の

close (形)近い(動)閉じる(例:close the spread→スプレッドを閉じる、カードを揃える)

complete cut カットする

count 数える

court card 絵札

cut/cut to カットする、分ける

cut~to… ~をカットして…に送る(例:cut top two cards to bottom→トップ2枚をカットしてボトムに送る)

cut~ into… ~を…に分ける(例:ask a spectator to cut the deck into three piles→観客にデックを3つに分けてもらう)

【D】

deal (1枚ずつ)配る、並べて置く

dealing position ディーリングポジション(例:keep the deck in dealing position→デックをディーリングポジションで持つ)

deck デック(a deck of cardsとも)

dealt pile 配ったパケット

destroy the evidence 手がかりがなくなる

display 置く

divination 当てる

double turnover ダブルリフト(double liftとも)

dovetail shuffle リフルシャッフル(riffle shuffleが一般的で、こちらは古い言い方)

drop 置く、乗せる

【E】

effect 現象

envelope 封筒

execute 行う

explain that~ ~と説明する、言う

e. g. 例えば

【F】

face-down 裏向き

face-up (名)表向き/(動)表向きにする

fan ファンする、広げる

fashion やり方(文脈によっては「it」と同じ訳し方のほうがいい)

flip over ひっくり返す

fold 折り曲げる

force フォースする

from~to… ~から…まで(例:from 1 to 52→1から52まで)

【G】

gather 集める、揃える

glimpse グリンプスする、ピークする(例:glimpse at the card on the right of the spread→スプレッドした右端のカードをグリンプスする)

group of cards 数枚のパケット

【H】

halves (文脈によって)分かれたパケット、2つのパケット

handle 扱う(動名詞:handling→ハンドリング)

hand~to+(人) (人)に~を渡す(例:hand deck to him→デックを観客に渡す)

have a free choice フリーチョイスで選ぶ

heap パケット、塊(少し古い言い方)

helper 観客

hold 持つ

【I】

in a row 一列に

impromptu 即興の、即席

injog 手前に、インジョグする

in the middle of deck デックの中に

i.e. 例えば、言い換えれば

【J】

jokers 2枚のジョーカー

jot down 書いておく、メモる

jump to the top トップに上がる、トップに戻る

【K】

keep track 見失わないようにする(直訳:追跡する)

knave トランプのジャック(古い言い方)

【L】

leave 置く、~のままにしておく

left over 余った、余分な

lift off 持ち上げる

locate 見つける

look though ざっと見る、調べる

lost (in the deck)(デックの中に)戻す

【M】

make+技法名 ~する(例:make a cut→カットする/make an anti faro→アンチファローする)

make an adjustment ~し直す(文脈によって「持ち直す」など)

make sure that (必ず、忘れずに)~するようにしてください

magician’s force マジシャンズチョイス(magician’s choiceとも)

match 一致する、対応する

mates メイトカード

missing なくなっていた

mixed (形)混ざった(例:look well mixed→よく混ざっているように見える)

mystify 煙に巻く

【N】

name (カードの名前)を言う

NDO new deck orderの略。いわゆるデック開封時の並びのこと

note 見ておく、確認する

next 隣の、次の

【O】

onto ~の上に

openly 堂々と

order (カードの)並び、順番

【P】

pack デック

packet (名)パケット、束(動)パケットにする、重ねる

palm (名)手のひら(動)パームする、隠し持つ

pair of 5’s 5のペア

participant 観客、参加者

pause 間を空ける

perform 演じる

performer 演者

performing 手順、演技

pick 取る、カードを引く(2枚以上のカードを指定した場合には「1枚ずつ」という言葉を入れて訳した方が読みやすい)

pick up 取り上げる、カードを引く、持つ

pile (名)パイル、パケット、束(動)重ねる

place (動)置く、入れる

poker deck ポーカーサイズのデック(poker cardもまた同じ)

point 触れる、指差す

position 位置(例:card at the position →カードの枚数目)

predict 予言する

prediction 予言

preparation 準備

procedure 手順

produce 出現する、表れる、出てくる

prop マジック道具、用具

pull out 取り出す

put 置く、入れる

put~together ~と一緒にする

put up 入れる

【Q】

【R】

reach 出てくる、到達する、見つける、来る(例:you count the packet. When you reach ten…→パケットを配っていて、10枚目に来たら…)

rear of the deck デックの下

remainder 残り

remove 取り出す、抜き出す

repeated 繰り返し

represent 示す、表れる(予言系の手順で頻出)

retrieve 受け取る

riffle through はじく、パラパラめくる

rip~into… ~を…に破る(例:Ask a spectator to rips paper into quarters. → 紙を4つに破いてもらう)

rough ラフ加工(例:treated with roughing fluid→ラフ加工を施した)

run ランする

【S】

separate 分ける

set 置く

sheet of paper 紙片

show 見せる、示す

shuffled deck シャッフルしたデック

skeptical 懐疑的

spectator 観客、相手

spread スプレッドする、広げる(spread throughとも)

square (up) 揃える

stacked deck スタック(stackとも)

stop any at time 好きなところでストップ

stopping whenever he chooses/wishes 好きなところで止めてもらう

suit スート

switch すり替える

【T】

take 取る、受け取る、抜き取る、取り出す、~する

take back 返す、戻す(例:take back the packet→パケットを返してもらう)

take out/up 取り出す

take~out of… …から~を取り出す(例:You take the deck out of the card case→カードケースからデックを取り出す)

transpose (順番を)入れ替える

turn 広げる、向きを変える(例:turn the deck face-down→デックを裏返す)

turn over ひっくり返す(例:turn over the face down card→裏向きのカードを表にする、めくる)

the aces (文脈によって)エースのパケット

the card 選ばれたカード(カードを引かせた後、覚えてもらうなどの記述がこれ1つで省略されることが多々ある)

the cards match メイトカードになる(直訳:複数のカードが一致する)

top トップ(の)

top third of the deck デック(の上)から3分の1(1年の3分の1を意味する「third of the year」と同じ形)

top card トップのカード、一番上のカード

toward 付近

toward you 自分の方に向けて

【U】

【V】

value (カードの)数字

vanish 消える、消す

vice versa 逆も同じ

volunteer 観客

【W】

with this~ (文頭)~によって

wrong 失敗

【X】

【Y】

【Z】

※この単語リストはあくまで和訳時のもの。複数の英単語で意味や訳語が被っているのはそのため。