ルーク・ジャーメイと監督が語る、海外ドラマ「メンタリスト」の裏側


2008年~2015年まで放送された海外ドラマ「メンタリスト」は、主人公のパトリック・ジェーンが持ち前の洞察力や容疑者との駆け引きを通して、犯人をあぶり出していく様を描いたミステリードラマである。

下の動画は製作総指揮のクリス・ロングがエピソード監督を務めたシーズン2 第1話「贖罪」の冒頭を、若きルーク・ジャーメイを聞き役に解説したものである。

容疑者を見抜く系の犯罪ドラマでは、大概「どうしてそれがわかったのか」という解説が入るものだ。ただし、同ドラマでは、珍しくそうした説明がほとんど入っていない。一部の視聴者はこの構成に「論理的思考が提示されない犯罪ドラマに一体何の魅力があるのか」と息巻いていることだろう。

だが、今回の映像では、製作陣の視点から主人公がどのようにして相手を見抜いたのか、その一部が垣間見れるようになっている。

Simon Baker 2010 – The Art of the Mentalist with Chris Long | YouTube

シーズン2 第1話の冒頭では、主人公のジェーンが普段どのようにして犯人をあぶり出していくのかの簡易版(ある種のデモンストレーション)から始まる。

ロング:ジェーンは観察や会話を通して相手の反応を読み取るわけだが、今回は一度に多くの人を相手に読み取らなくてはならない。

ジャーメイ:犯人の目の動きが事実を物語ってるよね。正確なタイミングで怪しい仕草を演じるのはとても難しいことだと思うよ。

ロング:基本的には自由に演じさせている。でも、あまりに微妙な動きだと視聴者には伝わらない。だから、観察を使って相手の反応を読み取るシーンでは、誰にでもわかるように心がけてる。後で見返したときに疑問が解決するようにね。それじゃ、検証してみよう。

ロング:最初の2人の容疑者はすぐに犯人ではないとわかる。彼らが無実であることはボディランゲージから見て取れる。2人は無能ではないが、仕事に喜びを感じていないことが表情からもわかる。両肩が下がって、自分を小さく見せている。口角が下がり、恐れと自信のなさが見える。ここでは、臆病者という設定なんだ。

ロング:これらの兆候からジェーンは即座に2人は無関係だと考えた。彼らは反抗もしていなければ、今回の一件に興味すらも持っていない。

ジャーメイ:このシーンではジェーン役のサイモン・ベイカーに何か演出はしたのかな?

ロング:とにかく自由にやりたいと言ってたね。撮影現場を思うままに歩き回っていたよ。

ロング:だが、今回細かく演出したのは容疑者たちの方だ。例えば、ソファに座るリードは自宅でも同じような生活を送ってる。休みの日はソファの上でピザを食べたりして、一日中そこで過ごすようなタイプだ。警察も恐れていない。

ジャーメイ:このシーンは特に興味深いよね。果物を渡して代わりにバッグを取り上げるこのやり方は僕もステージで似た手法を使うことがある。例えば、観客にペンを渡して何か頭に思い浮かべたものを紙に描いてもらったとする。その後、ペンを取り上げるために何か別のものを渡すんだ。そうすることで、舞台の進行をスムーズに運ぶことができる。

(ジェーンがカバンの中から頭痛薬を見つけた際に「薬を飲むよりお母さんを許せば、頭痛は止まるよ」というセリフについて)

ロング:誰でも母親との間には何かしらの確執があるもんだよ。

ル:確かに「母親を許せ」というセリフは誰に対しても言える。少し考えれば、何かしら思い当たる。

ジャーメイ:強気で反抗的な女性とわかった上で、ジェーンは彼女を挑発してる。怒らせるほど自分の考えが外で出るタイプだね。こうすることで本音を聞き出しやすくなる。ここでは相手を見ずに話しかけてるし、あえて視線を外して名前を呼ぶことで軽蔑を印象付けている。

ジャーメイ:質問なんだけど、彼女が顔をそらしたのは監督の演出によるもの?それとも彼女が自然に?

ロング:これは彼女が自然にやったものだね。撮影前に自分で色々とイメージしていても、俳優が演じるとまた違うものになることがある。これは良い俳優ほどその差が大きくなるんだ。それこそサイモンとマンディ役のローラとの相性は良かった。でも、撮影前に一緒にいた時間はほんの束の間で、楽屋でもほとんど顔を合わせなかったと思う。

彼女が演じるマンディ・シュルツは傲慢で生意気な女性だ。できれば、ローラの思う以上に嫌な女性を演じてほしかった。けれど、実際の撮影では想像以上に傲慢に見えてしまうことがあって、ここではそれを拾い集めて編集したんだ。

【凶器を見つけるためにマンディの両手に触れる場面について】

ジャーメイ:視聴者はジェーンが彼女の手を取った時、筋肉の緊張を読むんだろうと思ったろうね。人は何か気になるものがある場合、そこに近づこうとすれば、意識せずとも筋肉が抵抗する。

ロング:ここでは脈も見てると思うかい?

ジャーメイ:いや残念ながら、親指で脈拍を読み取れるとは思えない。それも1つの選択肢ではあるけれど、もし僕が実際にやろうとしたら、脈拍の変化か筋肉の緊張のどちらかだ。

ロング:ジェーンが何を使って相手の心を読んでいるのかを伝えるのは難しいことだよ。

ジャーメイ:いやでも、ジェーンが何を使って相手の心を読むにしても、きっと誰も疑問を持たないと思うよ。

ロング:このシーンで一番気をつけたのはサイモンの視線のその先にある。自由に歩き回っているように見せて、実際には犯人の視線を追っている。ここでは、何度も編集しなおしたよ。視聴者が見直しても、辻褄が合うようにね。

ジャーメイ:彼が使ったのはいわゆるノーコンタクトリーディングだね。相手の身体に触れずに観察だけを使って反応を読み取る方法だ。身体に直接触れる方法よりもずっと高度な技術だ。そして、このシーンではその両方をうまく組み合わせてる。

メンタリズムの知識がある人から見れば、2つの技術の存在が頭をよぎる。一方、そうした知識がない人から見れば、彼独自の能力に見える。どちらの場合でも視聴者は楽しめるようになってる。

ロング:さて、犯人を追い詰めた後は逮捕劇だ。ここは純粋に笑えるシーンになってる。どんくさい警官たちがおなじみのドタバタ劇を演じて、ジェーンの最後の表情で何が起きたのかを伝えて終わりだ。

ちなみに、ルーク・ジャーメイのWikipedia(英語版)では、同ドラマの監修を務めたとあるが、それを示す出典はなく、また、iMDbによれば、同ドラマには一切クレジットされていない。加えて、動画での会話から彼は今回のエピソードを初めて見たばかりでなく、少なくともシーズン1の製作には関わっていないと考えられる。