【訃報】2017年上半期に亡くなったマジシャンたち


IBM(国際マジシャン協会)の報告によれば、2017年1月〜6月末までに約50人ものIBM会員が亡くなったことがわかった。

そこで以下では、今年の上半期までに亡くなったマジシャン(IBM会員以外を含む)の中から傑出した功績や特殊な経歴を持っていた人々を対象に簡単ながらも一部取り上げてみるとしよう。

【1月8日】マイケル・ジャイルズ(Michael Giles)享年56歳

昨年10月、イリュージョニストのマイケル・ジャイルズはステージ4のすい臓がんと診断された。その当時、高額な医療費の支払いを受けて寄付型のクラウドファンディングを使って、合計3万ドルを超える寄付金を集めることに成功。それによって、彼は妻メラニーとともに苦しい化学療法をスタートさせた。

しかし、その数週間後、彼は強い副作用を伴う化学療法に対し、ついには治療拒否という難しい決断を下す。

1月8日午後4時8分(PST)、彼は息を引き取った。

【1月23日】サリー・ファタ(Suley Fattah)享年53歳

彼はカナダにある奇術文化の発展を目的とした非営利団体「Magicana」のエグゼクティブ・プロデューサーであり、Geniiの2016年12月号で表紙を飾ったマジシェンヌ、ジュリー・オング(Julie Eng)の夫としても知られていた。

【2月6日】レイモンド・スマリヤン(Reymond Merrill Smullyn)享年97歳

アメリカの数学者であり、論理学者。数学パズルや論理パズルに関して多くの著書を執筆し、日本でも多数邦訳されている。

彼の自伝『天才スマリヤンのパラドックス人生』によれば、大学時代に彼はナイトクラブなどに顔を出しては、プロマジシャンとして働き、生活費を捻出していたそうだ。

その当時、「5枚エースのメリル」というミシシッピ出身のギャンブラーを演じては、テーブルマジックを披露していた。その間、バート・アラートン(Bert Allerton)やエド・マルロー(Ed Marlo)、ジョー・バーグ(Joe Berg)、そしてドン・アラン(Don Alan)らと親交を深めたと語っている。

【2月24日】ボブ・キャシディー(Bob Cassidy)享年67歳

稀代のメンタリストと言っても差し支えないと思う。現代のメンタルマジックの名著「The Art of Mentalism」や「The Artful Mentalism of Bob Cassidy」、その他多くの本を執筆。催眠術師やメンタリストの国際組織「Psychic Entertainers Association」(PEA)の共同創設者でもあった。

幼いころ、彼は兄弟ともにMecca Magic ShopやTannen’s Magic Storeによく足を運び、12才になるころには才能発掘系番組の元祖「The Original Amateur Hour」にマジシャンとして出演することもあったという。

アメリカ海軍に従軍後、モントクレア州立大学に通いながら、メンタリストや催眠術師としてクルーズ船を回り、エンターテイメントスキルを磨いていった。その後、ロースクールに進学し、法務博士を取得。「The Artful Mentalism of Bob Cassidy」によれば、それから10年間弁護士として働いていたものの、副業との兼業は難しく、1988年にメンタリストとしてフルタイムの仕事に移行したと語っている。

また生前、手品掲示板「The Magic Cafe」の中で実名で幾多の知見を残した。今後、その足跡は永遠に消えることはない。

【2月24日】ダロー(Daryl Edward Easton)享年61歳

数多くのマジックの教材ビデオを世に送り出し、マジシャンにマジックを教える「The Magician’s Magician」として知られていた。日本では、アンビシャスカードのDVDとイコールで結びついている人も多いかもしれない。

IBMによれば、ダローが遺したマジック界への最大の貢献として、ホットショットカットの考案とカードマジックの「Ultimate Ambition」の2つを挙げている。特に「Ultimate Ambition」は1982年のFISMスイス大会で演じた際、クロースアップ部門第1位を受賞した。

ちなみに、元々はダロー・マルティネス(Daryl Martinez)と名乗っていたこともあったが、娘が生まれた際に改めて自分の家系を調べてみたところ、血のつながった祖父がイーストンと名乗っていたのに対して、実父ではない育ての親がマルティネスだったため、それに合わせて祖父もマルティネスを名乗っていたそう。そこで、彼は2002年に法的にダロー・イーストンに改名したことがGenii 2005年9月号の中で明かされている

また、名前をファーストネームだけに変えた理由はそういったややこしい理由も含めてだそうだが、逆に苗字がないことでマドンナやスティングように、大物感が醸し出せるからだったそうだ。

⇒関連記事:二転三転するダローの死の真相、ついに決着か!?

【3月13日】ヴィンセント・フォイ司祭(Msgr. Vincent N. Foy)享年101歳

名前に冠してある「司祭」とは、芸名の類ではなく、彼はかつて紛れもないトロントの大司教区に属する司祭だった。

1939年(当時24歳)、聖アウグスティヌス神学校を卒業した彼は教会法の博士号を取得。1957年にはピウス12世の命により、司祭の称号を与えられた。

それから22年後の1979年、彼は教会から退くものの、説教などの執筆活動に尽力。

翌年からIBMの正式会員となったわけだが、実は教会に身を置いていた当時から「Dr. George E. Casaubon」というペンネームで既に何度か手品本を発表していた。また、2011年にはRon von Somerenの手によって、フォイ考案による100近いワンハンドカットのバリエーションが編集・出版されている

【3月14日】ジェームズ・ザカリー(James E. Zachary)享年84歳

ダイス・スタッキングの名手として知られ、15個以上ものサイコロを一度にスタッキングすることができたといわれている。1980年には著書「Zacks Stacks」を発表し、またDVD「Magic With Dice」ではザカリーの当時の演技が収められている。

【5月10日】グラハム・リード(Graham Reed)享年 不明

イギリスで長年放送されていた故ポール・ダニエルズの冠番組「The Paul Daniels Magic Show」にて、放送作家として、またダニエルズのアドバイザーとして10年以上にわたり、彼を陰で支え続けた人物。また、亡きアリ・ボンゴ(Ali Bongo)とも親しい友人の仲だったと伝えられている