【2016年】マジックに使えるかもしれない最新テクノロジー6選


マジックの世界では、指先のテクニックやギミック以外に現代のテクノロジーの恩恵を受けることがある。

例えば、フレンチドロップで販売される「インサイト」はその最たるもので、これは52枚のカード1枚1枚に電子チップが埋め込まれており、ある意味最強のマークドデックとなっている。オプションによっては読み取ったカードを把握するアプリも使うことができ、まさに現代の科学が成せる技だといえるだろう。

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とはいえ、今回はマジック業界にすらまだ進出していない、まるでマジックそのものといえる2016年の最新テクノロジーについて今一度振り返ってみよう。

01: 世界で最も黒い物質 「ベンタブラック」

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2016年3月、イギリスのナノテクノロジー企業であるサリーナノシステムズ社(Surrey NanoSytems)が光の99.96%を吸収する最も黒い物質「ベンタブラック」(Ventablack)を開発したことを発表した。通常、黒の吸収率は95~98%程度で、その差はごくわずかに思える。しかし、この吸収率の差は人間の視覚に大きな影響を与えることが下の写真で明らかなはずだ。

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photo by surreynanosystems.com

上の写真は奥にある仮面の彫刻をベンタブラックでコーティングしたもの。人間の目は光の反射によって物体の凹凸を認識しているが、こちらあまりにも反射率が低いせいで、3次元空間の中に平面があるように見えてしまう。

こうした3次元の物体を2次元にしてしまうほどの錯覚を与えうる新素材をマジック業界に取り入れたら、どうなるだろう?

もしかしたら、黒を基調とするステージマジックにおいて、出現や消失に一役買ってくれるかもしれない。透明マントならぬブラックホール○○○として…。あるいは、クロースアップマットへの応用やそれを用いたギャフカードなんてのもいいかも!?

02: 音の出るエアギター「AirJamz」

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2016年4月、クラウドファンディングサイト「Kickstarter」から動作に合わせて曲が流れる新製品「AirJamz」が登場した。リストバンド本体の中にモーションセンサーを備え付けており、利用者が動くと音が鳴り、静止すると音楽も止まる仕掛けだ。しかも、微妙な動きにも敏感に反応する仕組みになっており、利用者がゆっくり動くと、スローテンポに曲が変化することができる。

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その後、「Air Jamz」は資金調達に成功し、現在では、Amazonでも流通しているようだ。

しかしながら、このようなデバイスは既にマジック業界にもある。「ワンダーオーケストラ」という名で知られ、電子ギミックでありながら、非常に安価で3000円程度で入手可能。

逆にマジック業界で出回っている製品を大人用のおもちゃとして売り出すのもアリなのではないかと思ってしまう。

03: 直接手を触れずに物体を動かす音響浮揚技術

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2016年5月、イギリスのブリストル大学の研究チームは音響浮揚(Acoustic levitation)の技術を使い、音の力で物体を浮かせ、かつその状態で物体を回転させることに成功した。これまで音響浮揚は非常に小さいものであれば、物体を浮かせることはできても、そこから意図的に回転といった操作ができなかった。

将来、物体を直接触れずに回転などの操作が可能になれば、危険な物質を扱う現場や医療分野に多大な影響を与えることができるだろう。

04: 対パパラッチ用スカーフ「The ISHU」

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2016年6月、セレブ向けの対パパラッチ用スカーフ「The ISHU」の販売が開始された。発売後、すぐにもキャメロン・ディアスやジョー・ジョナスなど有名人たちが身にまとっている姿が目撃されている。本商品はカメラのフラッシュの時のみ反応し、その周りのもの上の写真のように黒く写る。

本商品はパパラッチ被害を受けるセレブ向けの商品ゆえ、価格は4万1630円と少々高めに設定されている。

「The ISHU」では、スカーフ以外にもスマホケース(8499円)、スウェット(1万8582円)、パーカー(2万7225)、Tシャツ(8499円)、ネクタイ(1万2964円)とライフスタイルにあった商品展開を行っている。

以前、スマホのカメラを使ったトリックが注目を浴びることがあったが、こちらも新たなギミックとして転用することができるかもしれない(フラッシュする必要があるけど)。商品にコーティングされている素材を52枚のデックに移植しようものなら(スマホケースの単価を念頭に入れると)、相当バカ高くなること間違いなしではあるのだが・・・。

05: 専用のメガネなしに3D映画を観賞することができる劇場スクリーン

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3D映画が多く展開されてつつある昨今、時折あのメガネに嫌気がさす人もいる。そんな中、2016年7月、アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)のコンピューターサイエンス・人工知能研究ラボ(CSAIL)は専用のメガネなしで3D映画を観賞することができる劇場スクリーンを開発中と発表した。

既にプロトタイプのスクリーン「シネマ3D」は完成しており、これによってどの角度からでも、メガネなしに3D映画を楽しめるのだいう。

一見、マジック業界にはなんら関係なさそうな話だが、マルコ・テンペスト(Marco Tempest)の存在を持ち出せば、話は変わるはずだ。

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マルコ・テンペストはスイス出身のマジシャンとして活動した後、デジタル技術と取り入れたサイバーイリュージョニストとして転身を図った。「デジタルイリュージョン」と銘打った新しいマジックの形は人々の関心を集め、2011年ごろからTEDに度々出演を果たしている。

彼が登場した当時、多くのマジシャンたちはきっと「あんなものはマジックじゃない」と鼻で笑った記憶があるかもしれない。だが、エンターテイメントとして成立しているのは明らかで、いくら彼のマジックを否定しようと、観客が受け入れた時点で彼の勝ちだと思う。ただマジックというよりも、見た目的にエンターテイメント色が強く、マジックっぽくないだけだと思うのだ。もしこの種のマジックを否定しようものなら、カメラトリックさえも否定の範疇に入ることになる。

現代のデジタル技術と従来のマジックを融合させ、新たなエンターテイメントショーを生み出さんとする反逆者は何もテンペストだけではない。日本出身のマジシャン 原大樹(はら・ひろき)もその一人だ。

次の動画は2016年5月末にアメリカの人気オーディション番組「America’s Got Talent」に登場した際のパフォーマンス映像だ。

淡々と現象を起こしては、観客を退屈という谷へ落っことすステージマジックの問題点をデジタル技術によって払拭し、古典的マジックと見事に調和させている。もはや、何が現実で何が投影によるものなのかどうでもよくなってくる。

無論、こうしたデジタル技術を個人が取り入れることは非常に難しいと思うかもれしないが、イリュージョンだってそれは同じことだろう。

理想は大手企業がマジシャンと手を組み、ユニークなプロモーション活動やライブショーに新たな視点を盛り込むといった状況が最も好ましいのではないだろうか。

余談だが、2016年4月にダレン・ブラウン(Derren Brown)はイギリスの人気テーマパーク「Thorpe Park」の完全没入型VRアトラクション「Ghost Train」と手掛けたそうだ。

将来、このようなデジタルイリュージョンが日本でもトレンドとして受け入れられることを期待したい。

06: メディアラボが共同開発した「本を閉じたまま中身が読める技術」

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2016年9月、MITメディアラボとジョージア工科大学(ジョージアテック)の研究者たちはマイクロ波と赤外線の間の波長を持つテラヘルツ波を利用し、本を閉じたままその中身を透視する技術の開発に成功した。ただし、現状では、表面に文字が1つずつ書かれた紙を9枚重ねた状態のものが限界だそうだ。

それでも、どのページに何の文字が載っているかを認識することは可能なようで、研究チームはさらなる検出精度の向上やテラヘルツ波の発信装置の出力アップに取り組んでいくとしている。今後、こうした技術は経年劣化でもろくなり、本のページを開くこと自体が困難な歴史的価値の高い古い文献などの調査に役立てられると考えられている。

とはいえ、我々マジシャンからすれば、どうしてもブックテストへの応用を考えざるをえないだろう。