【速報】2016年度 The Magic Cafe版トリック・オブ・ザ・イヤー が発表!


2017年2月5日(アメリカ時間)、手品専門の掲示板サイト「The Magic Cafe」にて行われたトリック・オブ・ザ・イヤーの結果がついに発表された。

「The Magic Cafe」では、各会員たちの投票によって、毎年3つの年間賞が決められている。1つ目は2003年からほぼ毎年のように開催される「トリック・オブ・ザ・イヤー」。2つ目は2005年から続く、その年の1冊を決める「ブック・オブ・ザ・イヤー」。そして、3つ目は2013年に新設され、マジック界に多大な貢献をもたらしたクリエイターに贈られる「サーストン・アワード」と呼ばれるものだ。

それぞれ会員1人につき、トリックを3つまで選出することができるが、投票権が与えられるのは過去に50回以上投稿を行った過去のある会員のみとなっており、新規会員の参加は不可となっている。

【2016年度:トリック・オブ・ザ・イヤー】

第1位:「Wiki Book Test」(App) by Marc Kerstein

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今年のトリック・オブ・ザ・イヤーでは、スマホアプリが初の受賞を飾った。考案者はこれまでいくつかのマジック関連のアプリの開発を担ってきたマーク・カーステン(Marc Kerstein)という人物。

彼は理系大学において世界トップレベルに位置づけられるICL(インペリアル・カレッジ・ロンドン)で数学の学士号を取得後、UCL(ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン)にてコンピュータ・サイエンスの修士課程を修了。

過去にはデビッド・ブレインやダルシー・オーク(Darcy Oake)などをクライアントに持った実績がある。

そんな彼が今回作ったのが通称「WikiTest」と呼ばれる、観客のスマートフォンを使って行われる、まさに現代的なブックテスト。

【現象】

観客にWikipediaを使って何か特定の人物やモノについて検索してもらう。次に観客は適当に選んだページの中から単語を1つ選んでもらう。そこから、演者は観客がどのページを見ていて、しかもどの単語を選んだのかを当てるというもの。

・観客のスマートフォンやタブレット、またはコンピュータでも行うことができる
・観客のデバイスには一切触れない
・協力者は必要なし
・使用言語:英語のほか、フランス語、ドイツ語、スペイン語、オランダ語でも動作可能
・動作環境:iOS9.2以降(iPhone, iPad etc.)

なお、こちらはiTunesから74.99ドルでダウンロードすることができる。

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まさかの海外のアプリ商品が受賞したことを受け、今回はあまり注目されない準優勝作品(本来、そんな言葉すらないが)を取り上げてみたいと思う。

実は投票が始まった当初、準優勝作品となったこちらの商品は得票数で1位を独走しており、早々にこれが今年のアレなのかな?と思っていたところ、急にあの「WikiTest」が浮上。その後、「ああ、これがあったね!」と言わんばかりに怒涛の追い上げをみせていた。

ということで、あえなく第2位になったトリックを紹介してみようかと思ったわけだが、こちらも日本ではなぜか未発売…。

Little Door」 by Roddy McGhie

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しかも、過去のトリック・オブ・ザ・イヤーと比べると、現象がかなり地味に見えるのは私だけだろうか。

【2016年度:ブック・オブ・ザ・イヤー】

第1位:「The Jerx Volume One」 by Andy

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今年の「ブック・オブ・ザ・イヤー」では、謎のブロガーAndyが書いた「The Jerx Volume One」が選ばれた。

驚くべきはその価格で、なんと300ドル!

マジックショップに一切卸すこともなく、すべて彼のブログ「The Jerx」のショップサイトを通してでしか購入することができない。

(1冊1冊にはそれぞれ固有の印が施されているようで、海賊版を流した場合、一体誰が横流ししたのかをきちんと把握できる仕様になっているらしい…怖っ)

そんな徹底した流通チャネルを敷きながらも、マジック雑誌「Genii」2016年12月号にて高評価をくらい、後にカナダの非営利団体「Magicana」ではジェイミー・イアン・スイスのレビューとともに(いつものように)長々と取り上げられたのも受賞の要因かもしれない。

では、なぜ300ドルもしたのか?一体何が書かれているのか?

始まりは2015年5月。マジックに対する非常に有益、かつ過激な知見を綴ったブログ「The Jerx」が開設された。

(元々は2003年から2005年にかけて、「The Magic Circle Jerk」というブログが原型で、当時はThe Magic Cafeへの挑発や批判が主な目的だったらしい)

同年10月、ブロガーのAndyは「The Jerx」の運営・維持に伴い、読者からの金銭的な支援を願い出た

彼いわく、サイトを収益化したい場合、通常は広告が考えられるが、本ブログのテーマでは、あまりに読者層が狭すぎるとして広告案を却下。また、ブログでは、一部関係者を小バカするような、かなり挑発的な内容になることもしばしばある。それでは、広告主の怒りを買うだけだと冷静に分析。

けれども、そうした自由がなければ、サイトを続けようとはどうしても思えない。

そこで、サイトを運営し続けるためには読者のサポートが必要不可欠となる。よくあるマジック関連のメディアとは異なり、「The Jerx」では田舎町にあるような小さな新聞のようなものだと例えた上で、問題はこの新聞を見てくれる村人がどれくらいいるのか。

サイト維持にあたり、Andyはスターバックスのコーヒーを例に、週1度、5ドルのコーヒーを私におごってくれるかどうか読者に呼びかける。それが52週続いたとして、年間で260ドル分の寄付を「The Jerx」に投じてほしいと訴えた。

それに加えて、自身が書いた「The Jerx Volume One」というハードカバー本を付けて、1人あたり300ドルの寄付を募ったのだ。

また、寄付をしてくれた読者には特典として、以下のサービスが付与される。

・彼が書いた小冊子「The Amateur at the Kitchen Table」の付与(22ドルで単品購入可能

⇒こちらはインフォーマルな場でのマジックのパフォーマンスに関する46ページにもわたるエッセイ。また、このエッセイを書くことが「The Jerx」を立ち上げるためのインスピレーションにもなったそう。

・マジックのアプリThe Jerx App」の付与(149.99ドルで単品購入可能

⇒観客の認知能力や記憶力を奪ったりするメンタル系の手順が5つ収録されたアプリ。偶然にも、Jerxアプリの作成者があの「Wiki Book Test」を作ったプログラマー、マーク・カーステンというのだから驚きだ。詳しい現象や手順はコチラを参照。

他にも、新作マジック等の簡単なレビューやオススメ作品を教えてくれるメルマガなど、すべて(+全世界送料無料)合わせても、実際の寄付金額は100ドルちょっとしかない。The Jerxでは、ほぼ毎日更新されている現状を踏まえれば、事実上、この300ドルという価格設定はかなり安く思えてしまう。

実に賢い。

今でいうところのクラウドファンディングというべきなのか。

さて、前置きが長くなってしまったが、実際、どのような内容が書かれているか?

それにはまずAndyがどういう人物なのかを少し紐解くとしょう。

著者であるAndyはプロでもなければ、プロになることにも関心がないアマチュアマジシャンだ。

それはマジック業界を支える大部分を占める人種ということでもある。

多くの場合、「真のプロとは…」みたいなプロを重きに置いたプロアマ論が語られることはよくあるが、こちらは「プロでないもの」は何を目指すべきなのか、どのようなトリックを行うべきなのかといったことを前提に論が展開されている。

例えば、プレゼンテーションについて語られた連作のエッセイでは、次のように語っている

「わたしはステージマジックやレストランマジック、ストリートマジックには興味はない。人々がそれについて読みたいとき、演技理論に行き着くからだ。わたしが多大な興味を持っているのはカジュアルな場での一握りの人相手にやるマジックだけだ。できれば、1対1がいい。そして、そのような状況下では、これまでに読んできたようなマジック本では理論の98%が間違っているか、少なくとも適用はできない」

(この種の内容は特に「The Amateur at the Kitchen Table」の中で取り上げられている)

まさしくこれはアマチュアだからこそいえる、辛辣かつ的を得た意見だと思う。

今までプロが上で、アマチュアが下みたいな論調ばかりがまかり通ってきたわけだが、「The Jerx」ではプロとアマを完全に分け隔てて、それぞれ別個の存在として話が進んでいく。

(というか、マジック業界を支えるのはそういう下に位置するアマチュアであり、マジックの質を維持するのもまたアマチュアだ。そうした論調がもっと前からあっていいはずなのだが…)

そして本書「The Jerx Volume One」では、同名ブログ内で取り上げられてきたエッセイやルーティンに大幅な加筆修正を加えたもののほか、未発表の作品も多数収録されている。

とはいえ、どうもその「作品」というのが突飛というか、ぶっ飛んだ内容らしく「どうしてそうなった?」みたいな作品が絶えないらしい。

The Jerx Volume One | Conjuring Archive
http://www.conjuringarchive.com/show.php?book=1195

幸いなことに、日本で指折りの奇術研究家2人が本書に手を出し、その一部内容をツイートしてくれている。

以下はそれらのツイートをTogetterにまとめたものである。

小冊子「Amateur at the Kitchen Table」の内容ツイートまとめ
https://togetter.com/li/1126121

謎に包まれたブロガーAndyが書いた300ドル本「The Jerx」の内容ツイート
https://togetter.com/li/1126109

ちなみに、今年のブック・オブ・ザ・イヤーでは、2位以下にランクインした他3冊は得票数がほぼ同率であると同時に、「The Jerx」とは対照的に日本でも容易に入手可能な本がいくつか被っていたため、ここに列挙しておくとしよう。

第2位:「Mentalissimo」 by John Bannon

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ジョン・バノン(John Bannon)が出した新刊「Mentalissimo」はカードを使ったクロースアップ向けのメンタリズム作品集。日本では、昨年12月から「フェザータッチ」が日本語訳付きで販売を開始しており、「The Jerx」さえいなければ、今年の1冊になっていたかもしれないバノンの新刊を日本語で読みふけることができる。

第3位:「In Order To Amaze」 by Pit Hartling

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Card Fictions」で一世を風靡し、最近日本でも邦訳され、再び注目を浴びているハートリング本。それが去年の2月、数年ぶりに新作を発表したのが本書。内容はなんとメモライズドデックをテーマにした21手順。メモライズドデック本というと、日本では少し前にホアン・タマリッツのDVD「ネモニカ・ミラクルズ」が日本語字幕版で登場したぐらいで、いくらハートリング本といえども、メモライズドデックという性質上、中々読もうと思えない。

そんな中、早くも本書「In Order To Amaze」の邦訳の許可は出ているようで、メモライズドデックに興味のない人でも、かの「Card Fictions」のようにハートリングのエッセンスを垣間見るには最高の機会といえる。

第3位:「Secrets of So Sato」 by So Sato

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佐藤総が2003年に出した「トランプと悪知恵」と「カードマジックデザインズ」を編集し、リチャード・カウフマンが英訳した本作。

どれだけ時間が経っても、海外の少し前の作品集は色褪せないな~とか、あっちは根本的に考え方が~なんてことを思っていたこともあった。だが、日本人でも海外の人間に同じことを思わせられるとは思ってもいなかった。良い作品が残るとは、このことかと。

また、本書には「カードマジックデザインズ」の時のようにDVDが付録としてついてくるのだが、なぜかそちらは日本語で解説されており、海外の人間も別言語での解説にどう顔を歪ませているのだろうか。

下記のページでは、2003年当時にどれくらい革新的なノートだったかがよくわかる。

トランプと悪知恵 | マジェイアの魔法都市案内
http://plaza.harmonix.ne.jp/~k-miwa/magic/favorite/warujie.html

【2016年度:サーストン・アワード】

その年のマジック業界で多大な貢献をしたと思しきクリエイターに贈られるサーストン・アワード。

今年の受賞者は3年連続でまたもマジックメーカー「ProMystic」の創業者、クレイグ・フィリセッティ(Craig Filicetti)が選ばれる結果となった。

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しかしながら、今回のサーストン・アワードの内訳は実にひどく、皆が皆自分に投票しているかのごとく、1票止まりが乱立。

今回、クレイグ・フィリセッティが選ばれたのも、4, 5人のユーザーが偶然同じ人物を選んだからといっても仕方がないレベルで、今年のサーストン・アワードは受賞者なしと考えた方が妥当だろう。

同スレッドでは、それを察してなのか、「メンタリズム・オブ・ザ・イヤー」の新設やPenguin LectureやAt the Tableシリーズを対象とした「レクチャー・オブ・ザ・イヤー」の提案、さらにはVanishing Inc.の「The Trickies」のように、そもそもダウンロード商品やDVD等で分け隔てた方が良いのではないかという意見も散見された。主催者側はこうしたユーザーたちからの要望を受け、今後、どのような変化をつけていくのか、来年の動きに期待したい。

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【まとめ】The Magic Cafe歴代のトリック・オブ・ザ・イヤー受賞作品一覧

Vanishing Inc.主催、ベストトリックアワード2015 受賞作品一覧