心を読み取るだけじゃない、コールドリーディングの使いよう


バーナム効果の実験に用いられた”あのリスト“を初めて読んだとき、「これこそ人類の取扱説明書だ!」と1人で盛り上がった記憶がある。

言葉のトリックを除いて、コールドリーディングというのは総じて「人間とは何か?」を紐解くヒントが多分に含まれている。

言ってみれば、人は皆、自己愛性パーソナリティ障害気味なのだ。

自分が物語の主人公だと感じ、他の奴とは違うと信じて疑わない。

そして、それを示す証拠が心理学関連の実験で報告される度に痛感する。バイアスなんてその代表例だろう。

他にもこんな例がある。男と女は違うが、それぞれに抱える悩みや関心事が同じだというのは周知のとおりだと思う。

しかし、これが年齢層ごとにも、抱える悩みや関心事が似通っているというのはあまり意識されない。自分だけが必死に考えていることかと思いきや、そのくらいの年齢なら誰でも日頃から同じことを考えているなんて。その年代を過ぎ去った後でないと中々自覚しにくいものだ。

古典的な理論だと、エリクソンの発達段階なんかが挙げられる。つまり、特定の年齢層の人が共通してぶつかる人生の課題なんて本もリーディングでは使えるわけだ。

コールドリーディングの使いよう

ダレン・ブラウンのステージ公演Infamous」では、コールドリーディングの本質を巧みに応用して、冒頭からこんな話をしていた。

僕たちは皆、自分の頭の中に閉じ込められてる。世界に対する物の捉え方や考え方は、その視点に縛られている。

僕が外の世界に飛び出したのは31のときだった。10代の頃から自分はゲイじゃないかと思っていて、その間の15、6年は自分を偽っていた。セックスの話題は嫌で、他の人とは合わないと感じていたんだ。

何年か経つと、君も外の世界に飛び出さねばらないと気づく。ある時を境に周りに発信するようになる。別に、ここでいう”君”って、(そこにいる)君のことを言ってるわけじゃないよ。すまない、身振りで誤解させたね(笑)

もし秘密を持っているなら、それが何であれ、おそらく他の人に話すことができずに胸に抱え込んでると思う。そして、いずれ勇気を出して、内にある大きな秘密を打ち明けることだろう。

でも、気づくはずだ。周りは誰も気にしてないとね。彼らは気にしない。親友さえもだ。だって、人は自分の頭の中に閉じ込められてるから。自分が世界の中心だと思ってる。君が伝えようとしてるのは、自分に関する情報にすぎない。僕がさっき、君に言ったことと同じだ。僕に関するちょっとした情報ってだけ。

作家のデヴィッド・フォスター・ウォレスはこんなことを言ってる。「周りの人が君について考える頻度がどれくらい少ないかを知ったら、君はその人たちのことを気にしなくなる」

それでも、他の人の頭の中を覗くのは怖いことだ。しかも、その結果として、僕たちは受け入れがたい事実を知ることになる。それは自分たちがどれほど他の人と似通ってるかということ。

例えば、30代の人は自分が持つ可能性や問題に直面している。唯一の慰めは、それは同じ年代の人なら、ほとんどの人に当てはまるってこと。その年代の女性なら、最近頻繁に医者に通うようになったはずだ。そして、30代後半の男性は人生がマンネリのように感じ、浮気に走ろうと考えてる。この会場の規模なら、統計的にサイズ13の人がまさにその真っ只中だ(笑)

40代や50代、そして60代の人にも人生を通じて同様のパターンというものがある。僕は超能力者ではないが、もし何か特別な力があると主張しているなら、もちろんないけど、こうした情報を使って、君らについてよく知っているように見せかけることもできる。

それじゃあ、皆、1回想像してみてほしい。僕はサイキックだ。ある種のサイキックバイブレーションを感じ取っているとしよう…

こうして、オープニングの現象へと首尾よく移行する。

心を読み取ったように見せる話術として以外では、あまり矢面に立たされないコールドリーディングも、こう諭されると強いメッセージ性を感じる。ハッとさせられるような気づきを受ける。

(それまでの公演では、ドレスコードに身を包んだブラウンがテーマ曲とともに颯爽と現れるのが定番だった。そのためか、「Infamous」の冒頭は少々印象強く残っている。全体を通して見ると、他にもいくつかの点で異色な部分もあるが、それはまたの機会にしよう)

ちなみに、メンタル好きの友人はよく初対面の人にメンタルマジックを見せた後、コールドリーディングでいうフォーキングや失敗への対処法を明かすことで、自分のやっていることは観察や話術や心理学などの技術によって成り立っていると周囲に思わせている。時に失敗することもあれば、そうは思わせない工夫があるのだと。

心理学ビジネスに興じている人からすれば、もはや常套手段だろうが、コールドリーディングをリーディング以外の使い道で広げるのもまた心理学ビジネスに通じる”ネタ”であることは間違いない。