ジェイミー・イアン・スイスに聞いた「マジシャンに薦めたい必読書ベスト3」【後編】


前回の続き・・・。

3、それでは、あなたが考える一般的なマジック、もしくはパフォーマンスに関する書籍ベスト3は何ですか?

その質問はあたかも「一般的なマジック」だけでは不十分であるかのような物言いだね。またもや、そういった漠然とした質問をぶつけるってことは私に質問の曖昧さを指摘させ、多くを語らせようって魂胆なのかな?パフォーマンスに関する書籍についていえば、理論書も含むってことになるね(マイクは何を使うべきかといったテーマの本は理論書とはいえない)。となると、仮に私が理論についての本をリストアップしたとして、いや待てよ。それじゃあ、今回はその条件を無視しよう。代わりに、3人のクリエイターを挙げることする。実践的なパフォーマンスの理論とその他全般的な理論書についてだ。

A. 「ファイブ・ポインツ」 by ホアン・タマリッツ(原題:The Five Points in Magic by Juan Tamariz)

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B. The Magic Way by Juan Tamariz (未邦訳)

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C. Mastering the Art of Magic by Eugene Burger (未邦訳)

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D. The Books of Wonder 1&2 by Stephen Minch and Tommy Wonder (未邦訳)

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これら3人のクリエイター(スティーブン・ミンチは著者ってことで)については、特に紹介しなくてもいいだろう。ホアン・タマリッツは現代において最も影響力のあるクロースアップマジシャンであり、ダイ・ヴァーノンに最も近い存在と考えていい。もちろん、こういった比較の仕方は業界内でひどく頻繁に繰り広げられているテーマだ。それに関していえば、タマリッツの創造性はかのヴァーノンほど革新的ではなく、彼ほど様々な分野に影響を与えてはいないかもしれない。だが、タマリッツなしに現代のマジック界を語ることは不可能であるのもまた事実だ。(特に彼は「スペインのダイ・ヴァーノン」と呼ばれるアルトゥーロ・デ・アスカニオ(Arturo de Ascanio)の弟子というのもまた議論に拍車をかけているのかもしれない)

そして、1982年に発表された「ファイブ・ポインツ」では、マジックを行う際に意識すべき演者の身体の動き(5つのポイント)に焦点を当てた一冊となっており、また本書では「Double Crossing the Gaze」の初出文献として歴史的価値も高い。加えて、続編である「The Magic Way」は彼の理論の大本を英語で読むことができ、その中には非常に重要な「Theory of False Solutions」が収録されている。

では次に、ユージン・バーガー(Eugene Burger)に話を移そう。彼の著作「Mastering the Art of Magic」はバーガーの初期の作品でありながら、恐ろしいほどの影響力をもった小冊子だ。1982年、彼が発表した「Secrets and Mysteries for the Close-Up Entertainer」という100ページにも満たない本を読んだとき、私はクロースアップマジックの演技に対する考えが根底から覆ったことを覚えている。本書では、他のどのタイプとも異なるマジックとはいかなるものであるかを提唱した。そして、「Mastering the Art of Magic」では、最も素晴らしい理論、かつアーティスティックいえる実用的なクロースアップマジックで溢れかえっている。それが自身のレパートリーに入るかどうかにかかわらず、深く研究するのに値する一冊といえる。

4冊目の本「The Wonder of Books 1&2」はおそらく20世紀後半において、最も重要なマジックの理論書だろう。3人目のクリエイターであるトミー・ワンダーは史上最高のマジシャンとはいわなくても、彼が生きていた当時において、最高のマジシャンの1人だったことは間違いない。しかも、彼の業績はクロースアップ、ステージ、発明、思想家など多岐に渡る。これらの業績については、いくつか資料があり、その中には多くのインスピレーションを受けてしまう。とはいえ、それらはむしろ読んでほしい本とはまた無関係ではあるものの、そういった本もまたあまりない。

はてさて、「ベスト3を挙げろ」と言われ、その上限を超えておきながら、この作品から遠ざかることはできないようだ。

私個人の話をすれば…。

A. The Dai Vernon Book of Magic by Lewis Ganson (未邦訳)

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B. The Original Stars of Magic (未邦訳)

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C. 「ターベルコースインマジック 第1巻~第7巻」 by ハーラン・ターベル The Tarbell Course in Magic, Volumes 1 – 7 by Harlan Tarbell

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「The Vernon Book of Magic」と「The Original Stars of Magic」は20世紀半ばに誕生したプロマジシャンのためのコア・カリキュラム(必修科目)として供給され、それ以来、クロースアップマジックの貴重かつ大切な研究資源として受け継がれてきた。私の場合、これらの資料をクロースアップマジックの基礎と位置づけていて、これなしには真面目にクロースアップマジックについて研究することは不可能とさえ思っている。同様に、インスピレーションを特に受けた本として、「Dai Vernon’s Tribute to Nate Leipzig」と「Malini and his Magic」が挙げられ(両者ともルイス・ギャンソン(Lewis Ganson)著)、これらは自身の研究の過程で幾度となく読み返した本でもある。

ちなみに、L&L Publishingでは、ヴァーノン及びギャンソンのタイトル計8つをなんと1冊にまとめ上げた大作「The Essential Dai Vernon」を2009年に出している。

【収録作は以下のとおり】

・The Dai Vernon Book of Magic
・Inner Secrets of Card Magic
・More Inner Secrets of Card Magic
・Further Inner Secrets of Card Magic
・Dai Vernon’s Ultimate Secrets of Card Magic
・Dai Vernon’s Tribute to Nate Leipzig
・Malini and His Magic
・Dai Vernon’s Symphony of the Rings

最後に、独特で創造的な視点を持ったクリエイターとして、多数の不朽の名作を世に送り出したある男の作品集を紹介したい。それはマイケル・クローズ(Michael Close)の「The Workers Series」だ。これは「The Book of Wonder」のようにマジック界に多大なる貢献と行ったといっても等しい作品集でもある。本書では、カードマジックはもちろんのこと、カード以外についても傑出した数々の作品を発表している。それだけでなく、堅実なメソッドや賢い構成の仕方、さらには魅力的かつクリエイティブなプレゼンテーションなどについても触れられており、いかにユニークなアーティストになるかを学ぶには最良の本だろう。この種のマジックは、観衆を楽しませては、注目を集め、そして1つのマジックショーを形作ることのできるものばかりだ(無論、ただ一瞬だけ驚かせるだけのスタントやビザーなどではなく)。

そして同様に、ジョン・カーニー(John Carney)の「Carneycopia」と「Book of Secrets」は名人級の本物のマジシャンによって書かれた申し分のない気品のある書物であり、現代における最も素晴らしいスライハンド・アーティストの1人に数えられる。特に「Carneycopia」の内容だけでも、簡単に生計を立てることさえできる。

…ああ、しまった。また3冊以上の答えてしまったようだ。

4、全てのマジシャンが読むべきマジックとは関係のない本を1冊教えてください。

(同サイトでは、以前にも同様の質問を幾多の有名マジシャンたちが答えている:「有名マジシャンたちが選んだ「13冊のマジック以外のオススメ本」)

Werner Herzog – A Guide for the Perplexed by Paul Cronin (未邦訳)

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ヴェルナー・ヘルツォーク(Werner Herzog)は最も独創的な映画製作者の1人であり、長編映画やドキュメンタリー、さらには辺ぴな骨董品を作ったりと謎の部分が多い。本書では、そんなヘルツォークが制作した映画を時系列ごとに大まかなに並べたもので、多くの場合、映画ファンや特にヘルツォークのファンなんかに読まれている。

しかしながら、この本の中には「アート」と「独創性」に関わる知見やそれらの分野に対する挑発的見解が多分に含まれている。私の経験上、それまでアーティストであることの意味をよりダイレクトに伝えられた本に出会ったことがなかった。

マジックのレクチャーで聞いた最高の褒め言葉の1つにこんなことを耳にしたことがある。「あの人はマジックについて話しているわけではない。彼は人生について話しているんだ」

ここでは、ヘルツォークの本の裏表紙に書かれている映画製作と人生における24のアドバイスを引用しよう。もしこのリストがどのようにマジックに生かせるのかがわからなったから、一度実物を手に取り、そして彼の映画「フィツカラルド」(原題:Fitzcarraldo)を見てみるといい。

1.常にイニシアチブ(主導権)をとる
2.もし相手を撃つ理由があったのだとしたら、刑務所で夜を過ごすことは何も悪くはない
3.手元の犬をすべて逃がしても、1匹くらいはエサを持って戻ってくるかもしれない
4.自身のトラブル(悩み)にけっして溺れるな。絶望は外には出さず、要点だけをまとめるようにしよう
5.自身の過ちから生きることを学べ
6.自らの知識に加え、古典から現代にかけて音楽や文学への理解を深める
7.未発表の作品がまだ手元にあったとして、最終的にそれが残るかもしれないし、素晴らしい作品になるかもしれない。
8.映画が完成しなかったことに対し、決して言い訳してはならない
9.ボルトカッターは常に持ち歩こう
10.組織は常に臆病風に吹かれ、計画を頓挫させてようと画策する
11.許可ではなく、許しを求めろ
12.運は自分の手で掴み取れ
13.景観における内面的本質を読めるようにする
14.心の底から情熱を湧かせ、未知の世界を探究すること
15.まっすぐ前を歩け。決して、遠回りはするな
16.巧みに操り、人々の判断を曇らせろ。それでも、常に口に出せ
17.拒絶を恐れるな
18.自分の考えをもっと発展させろ
19.1日目からは後戻りできない
20.名誉の勲章は映画理論における失敗の始まりだ
21.チャンスは映画の生命線だ
22.ゲリラ戦術こそ、最善策
23.必要とあらば、リベンジしろ
24.後ろに熊がいることに慣れておけ

5、最後に、これからプロの市場に足を踏み入れようと考えるアマチュアたちに向けて、アドバイスは何かありますか?

できるだけたくさんのショーをやることだね。そして、いろんなところに足を運ぶことだ。その間はライバルとなるプロたちとは競合しないようにする(タダ働きだったり、タダ同然で行っても構わない。けれども、メインとなる市場の中で3分の1から2分の1の価格帯で仕事を取るなんてことをすれば、全体の市場価格に悪影響を与えるから、それだけは控えよう)。

とはいえ、良いマジシャンになりたいと思っているアマチュアたちのためにもっと良いアドバイスを2つ授けよう。

1つ目はできるだけ幅広く、かつできるだけ多くのことを学び、そして学ぶこと自体に純粋に喜びを感じることだ。

もうひとつは周囲にいる人々を巻き込み、自身の何が優れているかを探すことだ。そして、メンターを見つけろ。もし自分よりも賢く、才能に恵まれ、高いスキルを持つ人間と同じ時間を過ごすことができなければ、きっと自分にしかない優れた何かを見つけ出すことはまずできない。それどころか、そのままだと、君は一生二流のままだし、そういった人間はこの世に五万といる。

それでいて、自身の研究について他者から教えを乞うことはしないことだ。これである程度生計を立てられるようになるかもしれないが、世間の注意を引くことは絶対にできない。なぜなら、それにはアーティスティックな視点が必要になるからだ。よって、良いアーティストになったり、アートに貢献すること(良い仕事をしている以上の貢献はないが)はビジネスにおいて、利益をもたらす。仕事そのものは簡単なものではないが、やりたいと思うなら、そうするべきだ。

とはいっても、プロの市場に足を踏み入れ、あるいは美しいマジックの世界に浸り、そこから決して多額の利益を上げられなかったとしても、マジックや観客、そしてその全てに敬意を払うことは忘れないでほしい。目標を高く持ち、他者を批判するだけの最も低俗な連中から距離を置くんだ。なぜなら、先程から言っているその「優れた何か」とは、金銭敵価値とは何ら関係のない代物だからだ。より高い目標へ目指せば目指すほど、とりわけそれがまだ自分の中になければないほど、より良い世界に足を踏み入れることができるかもしれない。