ジェイミー・イアン・スイスに聞いた「マジシャンに薦めたい必読書ベスト3」【前編】


2016年12月26日、アメリカのマジシャン、ジェイミー・イアン・スイス(Jamy Ian Swiss)は「すべてのマジシャンが読むべきだと思う必読書」をテーマに5つの質問に答えた記事が公開された。5つとはいっても、そのシンプルな質問に対して、スイスは頭でっかちに論を展開(きっと色々と教えたかったんだと思う)し、中々の文字数になっているため、今回はそれを前編と後編に分けることにした。

Jamy Ian Swiss: Books Every Serious Magician Should Read… and Why! | Conjuror.Community
http://conjuror.community/jamy-ian-swiss-creativity/

1、あなたが考えるカードマジックの本ベスト3は何ですか?

その問いについて考えれば考えるほど、ちょっとした疑問が湧いてくる。君の言う「ベスト」とは一体どういう意味なのだろう。これまでに書かれたカードマジックに関する3冊のオススメ本という意味か?それとも、すべてのマジシャンがマジックを研究する上で読まなくてならないカードマジック本ベスト3ってことかな?あるいは、私が膝元に置いておきたいと思う愛読書について聞いているのかね?

仮に、これまでに書かれたカードマジックに関するベスト3について聞いていたとしよう。まず客観的に考えて、それを決めることはできない。まるで、それは最高の野球選手について議論を交わすようなものだ。最高の野球選手とは何だ?バッティングについて言っているのか、それともピッチング?盗塁の話かな?他にも色々な捉え方ができるはずだ。こんなふうに野球一つとっても、この手の話題についていくらでも最高の選手というものをあぶりだすことができる。つまり、カードマジックもその目的によって、優れた本が多々あるわけだ。

では、2つ目に考えられる「すべてのマジシャンが読むべきオススメ本」といった解釈で事を進めみたとよう。その場合、私ならこう答えられる。

A. 「カードカレッジ 第1巻~第4巻」 ロベルト・ジョビー著(原題:Card College Volumes One Through Four by Roberto Giobbi)

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B. 「プロがあかすカードマジック・テクニック」 S・W・アードネス著(原題:The Expert at the Card Table by S. W. Erdnase)

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C. 「Expert Card Technique (third edition)」 by Hugard and Braue(未邦訳)

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このリストは別に上から順に重要度が高いというわけではない。もっとも、本当はこのリストに「Vernon Inner Secretsシリーズ」を入れたかったのだが、カードカレッジシリーズによってヴァーノンの偉業の多くが網羅されているため、今回は省くことにした。

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Revelation by Dai Vernon

ロベルト・ジョビーは「The Royal Road to Card Magic」にインスパイヤされ、カードマジックのコンプリートコースともいえる本を執筆した(カードマジックの百科事典という意味ではない)。その後、6つの言語に翻訳され、世界中でベストセラーとなった。(第5巻も優れた本だが、ここではあえて第1巻~第4巻を薦めておく。最初の4冊は基礎的な教材として権威ある教科書となっている。だが、問題の5巻目では、ジョビー本人のルーティンについて書かれた本になっているためだ)

アードネスの存在なしにカードマジックにおけるベスト本なんていうリストは作れっこないが、ダイ・ヴァーノン(Dai Vernon)の「Revelation」も強く薦めておく。

また、HugardとBraueの「Expert Card Technique (third edition)」は歴史上最も美しいマジック本の1つだ。20世紀半ばに書かれた本書はその時代の最も影響力のあったマジシャンたちの寄稿をもとに編纂され、当時の最先端のテクニックなどを結集させた最高の教材だ。特に第3版の現物は入手しにくいものの、ダイ・ヴァーノンやドクター・ジェイコブ・デイリー(Dr. Jacob Daley)らの作品が多数収録されており、非常に好ましい。(なお、本書にはクレジットされていない、もしくは誤ったクレジットがなされたヴァーノン作品が多分に含まれている)

カードカレッジにはヴァーノンの作品が非常に多く収録されているのと同時に、エド・マルロー(Ed Marlo)の作品も散見される。マルローは現代のカードマジックに多大な貢献をした人物であり、ブルース・セルヴォン(Bruce Cervon)はかつて私にヴァーノンとマルローの2人の人物についてそれぞれ次のように表現したのを覚えている。ヴァーノンはまさに偉大な編曲家であり、才気に溢れ、大らかで、かつマジックへの洞察に芸術性と影響力が振るう。対照的に、マルローは白衣を着た聡明な研究者であり、研究室にこもっては黙々と研究に没頭・・・。

とはいえ、念のため、3つ目に考えられる質問についても答えておくとしよう。つまり、私のお気に入りの3冊についてだ。こちらは上記のものとは全く異なる。

A. 「デレック・ディングル・カードマジック」リチャード・カウフマン著(原題:The Complete Works of Derek Dingle by Richard Kaufman)

B. Effective Card Magic by Bill Simon (未邦訳)

C. Professional Card Magic by Cliff Green (未邦訳)

デレック・ディングル(Derek Dingle)は私が知る中で最も優れたスライハンド・クロースアップパフォーマーの1人だった。彼が生きていた当時において、プロのエンターテイナーとして成功したものの中では、比類なきスライハンドマジシャンだった。正直言って、「The Complete Works」は必読書だと思う。1960年代~1980年代にかけて起こったカードマジックの革命的極致がこの中にはある。本書は私がパフォーミング・アーティストとして今後のキャリアを培わんとしていた非常に重要な時期に出版された。ディングルは当時、実質3つのトリックで生計を立てていたようで、最大でもおそらく6つほどしかレパートリーがなかった。そして、本書では、その6つのうち2つが収録されている。

2冊目、ビル・サイモン(Bill Simon)の「Effective Card Magic」だが、この本が1952年に書かれたという事実はなんとも受け入れがたい。実のところ、カードマジックの世界において、その後の30年間に渡って執拗なまでに議論されてきたプロットや手法の最先端がここに示されているからだ。例えば、「The Elevator Cards」はマルローによるアンビシャスカードのプロットから派生したもので、3つのパケットの上に3枚のカードを使い、テーブル上で行われる。しかしながら、私が10代後半の頃、かのマイケル・スキナー(Michael Skinner)やデレク・ディングルがBrown’s HotelのTannen’s Jubileeコンベンションの真夜中のロビーでそれをやっていたのを覚えている。もちろん、このプロットにはいろんなバリエーションがあり、本書では、このバージョンが登場する。そして、その対極に位置する考え方として、ロケーターカードの原理を用いた「The Locator Three of Clubs」という作品が収録されており、これは全てのメモライズドデック愛好家にとって価値あるアイデアといえる。しかも、それに加え、本書では私にとってストライク・セカンドディール(Strike Second Deal)の教則本でもあった。

ちなみに、Jean Hugardの「Ghost」の中にあるイントロダクション(書いたのはもちろんBill Simon)は数あるカードマジック本の中で最も好きなイントロダクションの1つだ(詳しくは、2006年に「Antimony magazine」の第6号に寄稿した「Making Introductions」に触れられている)

最後に3冊目のクリフ・グリーン(Cliff Green)による「Professional Card Magic」は私の愛読書だ。グリーンの本はあらゆるカードマジックの文献の中で、特段風変わりな1冊だ。生前、グリーンはエキゾチックなスライハンドテクニックを持った発明家であり、ヴォードヴィル形式の演芸を行うために「Interlocked Production of Cards」を設立した人物でもある。そんな彼が書いた本には彼がめったに演じなかった伝説的な一作「The Ace of Spades as a Sorcerer’s Apprentice」が収録されている(そのバリエーションとして、私は長年自身のレパートリーとして使ってきた)。このほかにも、グリーンの作品には応用度の高いダブルリフトやパームが多数収録されており、その価値は大きい。

2、では、あなたが考えるコインマジックの本ベスト3は何ですか?

コインマジックに関する文献はカードマジックよりもはるかに少ないから、その手の質問なら、簡単に答えられる。長年、コインマジックについて研究してきて、次の3冊が必要不可欠だと思う。

A. New Modern Coin Magic by J.B. Bobo (未邦訳)

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B. 「世界のコインマジック」、「世界のコインマジック2」リチャード・カウフマン著(原題:Coinmagic by Richard Kaufman)
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C. David Roth’s Expert Coin Magic by Richard Kaufman (未邦訳)

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事実、これらの3冊の本はそれぞれコインマジックの初級、中級、上級に分かれている。ボボ(Bobo)の古き良き著作は基本的な技法だけでなく、ギミックやその他の関連ツール等について解説されていて、その多くが現代のスタンダードとなっている。

次にカウフマン(Kaufman)による「Coinmagic」と「David Roth’s Expert Coin Magic」は、両者ともにデビッド・ロス(David Roth)を取り上げ、コインマジックにおける抜本的な技術革新を築いた原点ともいうべき作品集であり、その中には「Vernon Rentention Vanish」や彼オリジナルの技法「シャトルパス」(Shuttle Pass)、さらにはエッジグリップ(Edge Grip)のような新しく高度な技法に続き、独創性に富んだ「ポータブル・ストーン」(The Portable Hole)などが収録されている。このほか、本書では、ジェフリー・ラタ(Geoffrey Latta)やソル・ストーン(Sol Stone)らが名を連ねた歴史的一冊でもある。

何十年も前から私はずっとこの3冊を推薦し続けてきたが、これらのリストと同等の価値を持つであろう、ある1冊が2017年にリリースされようとしている。その名は「The Long Goodbye」。スティーブン・ミンチ(Stephen Minch)とスティーブン・ホッブズ(Stephen Hobbs)の共同編集によって出版される予定で、内容はアンダーグラウンドのレジェンド、ジェフリー・ラタの作品集となっている。(当サイトの調べによると、ラタの作品集は2003年ごろから噂されていたが、その2年後にラタ本人が51歳にして他界。その後、2012年に発行元のHermetic Pressが公式アナウンスで彼の作品集の制作に臨み、今年中には…と抱負を語っていたようだ。そのため、今回の情報が本当に信用できるのかについては定かではない。しかしながら、2016年11月にHermetic Pressの公式サイトが突然閉鎖し、その胸中を明かした際にも2017年半ばにラタのコインマジック本を発行予定だと発表していたことから、今年こそは望みがあると考えていいだろう)。

最後に、「3」という制限にかかわらず、コインマジックにおける高度な研究をしたい場合、アンドリュー・ギャロウェイ(Andrew Galooway)が手掛けたジョン・ラムゼイ(John Ramsey)の3冊の作品集(「The Ramsay Classics」、「The Ramsay Legend」、「Ramsay Finale」)をあたるといい。

後編へ続く