【インタビュー】スプラウトの堀木智也さんに聞く「作品発表におけるクレジット表記について」


今回は最近、DVD作品集『スプラウト』を発表した堀木智也(ほりき・ともや)さんに「作品発表におけるクレジット表記」について話を聞いてみた。

Q. クレジットと参考資料の違いを教えてください。

参考資料はクレジットに含まれるものだと思います。参考にした資料というのは可能な限り全て明記されるべきものだと思いますが、クレジットというのはそれらに加えて類似した手順(先に出ているアイデア)を含めて表記するべきものであると考えています。

Q. では、クレジットと参考資料は一括りにして書くのはダメなんですか?

これは目的によると思います。後発の人が関連する手品を調べやすいように、ということであればそれらが同じところに載っていてもあまり不都合は無いのでは。

逆に、作者の辿った思考の筋道を示す、ということならばそれらは別々に表記されるべきでしょう。しかしながら、そのような目的を持った人ならばおそらくどの人のどういう資料を見てどうのこうの、ということをきちんと記載しているはずです。

私の場合は後者のような資料の方がありがたいとは思いますが、DVDの場合は一括りにしてあってもあまり気になりません。むしろ、DVDで後者のようなことをやられると再視聴が辛くなるので避けてほしいと思うことすらあります(Eric Jonesの初期DVDはその辺がめちゃめちゃ丁寧ですが、解説を何度も聞く気にはならないと思います)。

『Sprout』に関して言えば、あれは前者に分類されるクレジットの表記方法です。元から海外への展開を考えていたので、言語の問題もあり長々と自分の考えを垂れ流すことは避けようと考えました。あのDVDで伝えたかったのはあくまでコインの変な動きであり、またそれによって達成できる不思議さだったのでそれで良いと判断しました。ただ、Michael Rubinsteinはクレジットしておくべきだったと反省しております。

Q. クレジットを表記する際に最も効果的な方法を教えてください。

著者名、書名(出版年)、出版者・編集者、手順の名前、それに加えてその手順のどこを参考にしたのか、が全て書かれているのが理想ではあります。資料の名前なのか手品の名前なのかよくわからない、ということについては、” ”や『 』をきちんと区別して表記すれば解決する問題でしょう。すでに絶版ですが『まちかね山の魔法』という大阪大学の方々の作品集は、そこらへんがうまいこと書いてあった印象です。

先行のアイデアを表記することも大切ですが、自分が最もオリジナリティを主張したい部分をはっきりとさせることも大事だと考えています。そうすることによって、過去作品とどこが違うのかをはっきりと示すことができますし、またクレジットのチェックを頼まれた人も指摘がしやすくなるのではないでしょうか。

また、ショップの意向に沿う場合でも、(多くのショップはおそらく)基本的に演者の意志を尊重してくれるはずですので、無理やりクレジットから外す、ということはないと思います。あくまで、発表者がどういうスタンスで作品を発表したいかによるでしょう。例えば、ショーを撮影した映像ならばクレジットはそこまでうるさく言われることはないし、またあまり必要とされることはないと思います(そのあとで手法を解説するならば話は別)。

あくまで、マジックという文化の中で完結する情報を扱う場合、クレジットという形で先のアイデアに当たれるようにすべき、という意味合いなのかなと。

DVD・レクチャーノートでもその姿勢は本来変わらないはずです。しかしDVDの場合、クレジットという文字で表すことが多い情報はカットされやすい(必要以上に簡潔に表現されやすい)ということはある気がします。というか、あります(最終的なゴーサインを出すのは演者なので、誹りを受けた場合それは演者の責任ですが)。

Q. 最後に、なぜそこまでクレジットにこだわるのでしょうか?

私の場合は、単純に憧れた奇術師が博学であったからという理由です。とりあえず手品に対する姿勢から真似しよう、という。形から入ったわけです(一応書いておくと佐藤総さん)。 加えて、後から奇術の世界に入ってきた人に筋道を示すという意味でもクレジット表記は有用です。自分がそういうものに助けられて手品を学んできたこともあって、自分が資料を作る際はそういった学びができるようなものを作りたいな、と。

あとは、超すげえ!と思ったアイデアが実は元々存在した手順からそのまま借りたものだったりしてがっかりした経験が何度かあるので、そういう落胆を与えないように、という意味もあります。上で書いた話と関連していますが、どこが自分の貢献であるかをはっきりさせたらそういった問題は解消されるのではないでしょうか。

表向きは「先人の功績を消さないため」ですが、こだわる人はこだわる人なりの理由がいろいろあると思います。少なくとも僕は、アイデアの所在をはっきりさせるためにクレジットは大切にしてます。まだ甘いと言われそうですが。

(原文ママより)

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