2019年にやってくるマジックブームを予想してみた


日本のマジックブームは7年周期でやってくるというのがテレビ業界の定説とされている。

最後に起きたのが2012年のメンタリズムブーム。これは過去のマジックブームと比較しても珍しい事例だったようで、メンタリストDaiGoが独自のジャンルを持ち出したおかげで、完全に一人勝ちしていた。

その前は2005年にピークを迎えたとされ(7年周期と言いたいがためにちょっと押しつけがましいが)、2003年ごろから前田知洋を火付け役に、セロのストリートマジックやマギー審司、ふじいあきらなど連日のようにマジシャンがテレビに登場していた。

さて、この7年周期説が正しいとして、次に訪れるであろう2019年のマジックブームには一体どのようなスターが誕生するのだろうか?

今回はそんなそう遠くはない未来について考えられうる可能性を検討してみるとしよう。

◆新たなコンセプト

ストリートマジックしかり、メンタリズムしかり、次のマジックブームでも新たなコンセプトの台頭が後のマジック人気を牽引することが十分に考えられる。

言い換えれば、どんな分野であれ、何かしらのブームを起こす際にはそれを一手に引き受ける第一人者(=立役者)が必要になる。

では、いまだにスポットライトの当たっていないコンセプトとして何があるのだろう?

海外では成功しているけれど、まだ日本には入ってきていないという意味で、マジックのWikipedia(英語版)を覗いてみた。ところが、残念なことにマジックジャンルにはあとビザーマジックとピックポケットしか残っていないようだ。

1. ビザーマジック

ビザーマジック(bizarre magic)とは、ホラーやダークファンタジー的要素の強いマジックのことをいう。時にショックマジック(shock magic)ともいわれ、鼻に釘を刺したり、腕を針で串刺しにしたりと痛覚への受動的共感や大道芸的驚きを誘うパフォーマンスを指している

これらは人によって別個のものとして分けて呼んだり、それぞれ同義語として用いられることがある)

私の知る限り、ビザーマジシャンには次の3つのタイプに分けられると思う。(分類名にはこだわらないでほしい)

I. スペリー型

ダン・スペリー(Dan Sperry)

特徴は身なりから威圧感を覚えさせる出で立ちで、血や恐怖、痛みを直接的に表現する。例えば、ダン・スペリーの場合、まるで、マリリン・マンソンの熱狂的なファンであるかのような異質な出で立ちで見る人の恐怖を煽る。そして、自らのパフォーマンスを「ショックマジック」「ショックイリュージョニスト」などと称し、「マジックをする人」から「恐怖をもたらす人」へとイメージを変貌させている。

II. ブラッシュウッド型

ブライアン・ブラッシュウッド(Brian Brushwood)

特徴はビザーマジックを1つのスタントとして扱っていること。例えば、ブライアン・ブラッシュウッドは大道芸もこなすキャリアの長いマジシャンだ。そんな彼は「Scam School」というネット番組の中でビザーマジックをただ恐怖を煽る道具として使うことはない。彼の目的は相手を驚かすことにあり、ビザーマジックはその手段に過ぎない。そのため、彼の身なりはとてもカジュアルで、親近感を覚える。

III. バーガー型

ユージン・バーガー(Eugene Burger)

特徴はビザーマジックを黒魔術として位置づけていること。ユージン・バーガーの身なりからもそうだが、ブードゥー教やジプシーの魔術的文化といった「古代の魔術」をモチーフにしている。スペリー型のような過激さはなく、その場の雰囲気づくりにダークホラー的要素を重きにおいている。

日本では、ビザーマジックという言葉は2011年以前のメンタリズムと同様、世間では全くと言っていいほど認知されていない。当然、これは「ビザ―(bizarre)」という聞き慣れない単語によるところが大きい。

そのため、これをホラーマジックとか、ハロウィンマジック、ゴシックマジックなんて言い方をすることで、どういう内容なのかを想像させやすくこともできる。(ただし、言葉のチョイスを間違えると、中二病真っただ中の痛い奴に思えてくるので注意)

とはいえ、テレビでは、ビザーマジック単体では厳しいものがあると思う。ビザーは本来、ライブ向きのショーといった毛色が強く、日本のバラエティ番組とは合わない気がしてならない。

それに一部では、マジックブームの中には「イリュージョン→メンタル→クロースアップ」(順番がこれかどうかは不明)というサイクルがあると信じられているそうで、これは同じジャンルが連続でタブらないことを暗示していると解釈できる。

2. ピックポケット

ピックポケット(pick pocket)とは、人間の注意を巧みにそらして相手のジャケットやズボンのポケットからモノを盗みとるパフォーマンスのこと。

アポロ・ロビンス「人の注意力を操る妙技」| YouTube

言い換えれば、これはミスディレクションのみを焦点に置いたマジックということになるわけだが、これだけ聞くと、少々広がりがなさそうに見える。だが、実際、既にこれを全面に押し出したマジシャンはいて、彼の戦略は実に巧妙だ。

彼の場合、「ミスディレクション」という言葉を拡大解釈して、そこに「思い込み」という言葉とイコールで結びつけている。

つまり、「ミスディレクションとは何か?」という質問に対して、「それは人間の思い込みだ」と明瞭かつ簡潔に答えているわけだ。これは間違った説明ではない。だが、思い込みという言葉ほど鉄壁の論理はない。

なぜなら、ここから思い込みを使った現象という風に真面目にウソをついてもよくなるからだ。真実と嘘を混ぜた話ほど見抜きにくいものはないし、そこにショービジネスという前提があれば、もっとだ。その点、実に賢いと思う。

また、関連語にはバイアスなんて言葉もあるし、そこからいくらだって心理学ビジネスに加担できる。無論、これはメンタリズムのように曖昧な言葉でもなければ、造語でもない。マジック界に従来からある言葉であり、漫画「黒子のバスケ」に登場したりする。(しかも、カタカナ語!)

近年では、ミスディレクションの研究も科学的にかなり積み重ねてきているし、視線誘導の実験でマジックの映像が使われることはよくある。それに続いて、バイアスの存在を検証した奇想天外な実験もたくさんあるし、テレビ向きにそれを再現するのもまた面白いかもしれない。

そうやって考えれば考えるほど、よくぞこんな身近な言葉に万能感溢れる要素を見出したなと感心してならない。

◆古き良きスタイル

とはいっても、前述の「イリュージョン→メンタル→クロースアップ」なんていうサイクルを念頭に入れると、以前に流行ったスタイルやコンセプトが再び脚光を浴びる可能性も考えられる。それこそ、ファッションのように。

この場合、2003年ごろに沸き起こった前田知洋のような紳士的な出で立ちがそれに当たるのだろうか。あるいは、ダイナモのようなゲリラ型のイリュージョンを敢行し、スマホやSNSの力が最大限活用される日が来るのだろうか。

Wikipediaにはなかったが、もしかしたら、「Prank」(ドッキリ番組)というジャンルが良い火付け役になってくれるかもしれない。日本では、毎年のようにドッキリ番組の特番が製作され、また2012年からは人間観察バラエティと銘打った自由度の高い同様の番組が毎週のように放送されている。

相手を驚かせる、不思議がらせるということについて、ドッキリとマジックの親和性は言うまでもないだろう。そうした番組で特定のマジシャンを起用し、定番のコーナーさえ築ければとは思うが、そこからブームへの足掛かりにできるというのは少々飛躍のしすぎというものなのだろう。

下の動画はマジシャンが一般人にイタズラを仕掛ける番組。今年で第3シーズンを迎えていて、昨年には新たな番組形式を築いたとして、カッパーフィールド賞を受賞している。

The Carbonaro Effect – Crabby Transformation | YouTube

(エイリアンの卵を誤って孵化させてしまうという設定)

◆最後に…

これはまだ偶然の範囲でしかないが、2005年と2012年のマジックブームが過ぎ去った後、テレビのエンタメ界に共通した転換期があることに気づいた。

それは科学だ。

例えば、2005年頃にでんじろう先生の科学実験や茂木健一郎のアハ体験が取り上げられはじめ、翌年にはテレビエンタメがガラリと変わってしまった。そして2012年の場合、DaiGoが本格的に心理学ビジネスに手を出し、2005年の時のような配置転換に上手い具合にハマる結果となった。

となると、次のマジックブームのその後を動きを考えてみたとき、科学系を押し出したパフォ、、、いや、いや、いや、いや、いや。これはただの選択的確証に過ぎないな。仮説の正しさを証明するために事実を誇張しているだけだ(笑)

見てお分かりのとおり、全体を通して自分なりに論理的な分析を試みてはみたものの、これらはもはや1人のメンタル好きが夢見る願望でしかない。

そういう意味では、アメリカで今年第4シーズンに入った「Penn & Teller: Fool Us」やイギリスの「The Next Great Magician」(2016)、スペインで今年から始まった「Pura Magia」のように毎週代わる代わる様々なマジシャンたちが思い思いのマジックを披露するという番組形式の方がマジック界にとっての理想なのだろうか。