【感想】マジシャン:摩訶不思議な世界(ネットフリックス)


2017年2月からネットフリックスで配信が始まったドキュメンタリー映画「マジシャン:摩訶不思議な世界」をようやく見終わった。

マジシャン:摩訶不思議な世界 | Netflix
https://www.netflix.com/jp/title/80151607

ネットフリックスのサイトページでは、「4人のマジシャンの私生活にカメラが入り、マジックの知られざる世界とその現実を追った」としか書かれてないようなので、感想がてらもう少し詳しい情報を掘り起こしてみようと思う。

〜登場人物の紹介〜

1人目:ジョン・アームストロング(Jon Armstrong

マジックキャッスルで働くカーディシャン。

最初はその辺にいる、よくいる"マジシャン"かと思ってたら、マジックキャッスル主催のAMAアワードで2006年度のクロースアップマジシャンオブザイヤーに選ばれたりしていたらしく、完全にノーマークだった(笑)

上記の写真からパッと見はアメコミ好きのオタクに見えると思う。(現在はヒゲをたくわえて、いかにも風格を漂わせてるけど)

そしてその印象は正しく、彼自身も大のコミック好き。しかも、それが高じて「Smoke & Mirrors」というマンガまで作っちゃうほど。

2人目:ブライアン・ギルズ(Brian Gillis

カルフォルニア州のレドンドビーチにある彼の自宅は一瞬マジックキャッスルを思わせるような外観で、部屋の中にはまるでオバケ屋敷のような仕掛けがたくさんあり、家具や壁に飾られているインテリアや不気味なマジシャンポスターに視線を移せば、中世の不気味な屋敷に入り込んだかのよう。

映画の中では、若かりし頃にトーク番組「The Tonight Show」に出演していた当時の映像を流した後に今も変わらぬマジックを見せては、世代を問わず人々をなおも楽しませ続けていることが見てとれる。

ジレベストを羽織り、眼鏡のオヤジっぷりはまさにプロという感じだが、風貌そのものは映画の主人公かその重要人物的脇役に置いても十分映える。

特にレストランマジシャンとして店のバーでワイングラスを片手に一息つく姿は渋く、カッコイイ。

また、四六時中カメラを回す監督に対し、自宅の中だからこそ見せられるマジック(犬にカードを当てさせる)をちょっとしたところで見せてくれるのはまさにベテランの所業って感じ。

年齢的にも家庭がありそうなものだが、現在は結婚はしていないようで、長年付き合いのある女性アシスタントと数匹の犬とともに暮らしている。

そんな女性アシスタント(Sisuepahn)の言葉は妙に印象的だったことを覚えている。「マジックは男の世界よ。男は女に騙されたくない」

3人目:ヤン・ルーベン(Jan Rouven)

今度はネバダ州ラスベガスから、とあるイリュージョニストにスポットライトを向ける。

見た目はいかにもベガスの夜でイリュージョニストという「仕事」に就いてる人って感じ(笑)

言い換えるなら、悩めるクリスエンジェルタイプっていうのかな。

最初は普通にマジックセットを買い与えられたところからスタートしたらしいんだけども。

また、フランク・アルフター(Frank Alfter)っていうマネージャーと二人三脚でここまでやってきたようで、彼のマジックをプロレベルまで押し上げてくれた人でもあるそう。

左:ヤン・ルーベン/右:フランク・アルフター

フランク自身もかつてはイリュージョニストとしてドイツ国内で活動していたみたいで、その経験を活かして今でもヤンに演技指導を施す様子が描かれている。

名前的にも薄々勘づいていると思うが、彼らは2人ともドイツ人で、「ドイツ人+イリュージョニスト+ベガス」っていう考えから一瞬「ジークフリード&ロイ」を想起するかもしれないが、ドイツではその二世的な知名度でもあるよう。

ステージの舞台裏では、マネージャーのフランクが舞台装置の点検をし、ヤンはメイクやヘッドセットを自ら全てこなす。これを見ていると、本当にほとんど自分たち2人でやらねばならないのだなとわかる。

いや、これは金銭的な意味が強いのかもしれないが、やはりプロだなと感じる。

ショーの後はサイン会に記念撮影、ヤン本人の写真がパッケージになったマジックセットまでも販売。また、illusionsのロゴをタトゥーに入れるコアなファンまでいて、ちょっと怖い(笑)

マネージャーとともに暮らす事務所兼自宅は中々の邸宅で、結構成功していることが見てとれる。

と、ここで一転。エンターテイメントリポーターのマイク・ウェザーフォードから一報が入る。どうやら、クリス・エンジェルが新しいTVシリーズで、彼らの十八番となっている「死のベッド(the bed of death)」と同じコンセプトのスタントをやるらしい。

実際に視察しに行ってみると、本当に自身のイリュージョンと似通ったパフォーマンスをやっていると知って憤りを感じる2人。

翌日、ドイツのゴシップサイトにその事実が載り、「死のベッドは誰のものなのか?」という切り口で記事が載った。(実際の記事:Wem gehört das „Bett des Todes“?

この事態を皮切りに、彼らがマジックを単なる娯楽や趣味などとは捉えずに、純粋かつ真剣に1つのビジネスとして捉えていることがはっきりと描かれる。そういう意味では、法設備が十分に整っていない本業界のリスクについてもう少し掘り下げてくれればとも思った。

ところで、個人的に一番気になったのはやはりマネージャーのフランクだろう。初めて見た時から所作がどうもゲイっぽく感じると思っていたのだが、カメラが切り替わる度にゲイ度がどんどん上がっていく。フランクがヤンに向ける態度もどこか父親的というか、パートナーというか、友人を超えた存在なのは明らか。

ラストでは仕事上のパートナーとは思えないハグの仕方を見せるも、結局はゲイ云々の話には触れずに終了。(その真相は後述!)

4人目:デイビッド・ミンキン(David Minkin

4人の中でどこか一番パッとしない人物。

マジックキャッスルで活躍していた時代もあったそうだが、映画の中では特筆すべきプロフィールは特に何も見当たらない。特にこれとって困難もなく、最終的にはマジック特番「Magic Outlaws」が決まり、盛大な拍手を迎えて終了といったところか。

全体的な感想

ちょっと知識のある人が何の説明もなしにこれを見ると、少し頭がこんがらがりそうだが、実はこれ、4年間の追跡ドキュメンタリーを編集したものとなっている。

さて、最初の40分くらいは各人物の紹介とかで、そりゃあ新鮮で良かったのだけれど、後半から一気に失速。当たり障りのないマジシャンの姿を見せられるのはやや退屈さを感じた。

私自身、ドキュメンタリー映画を好き好んで見る方ではないのだが、普通はそれぞれの人物紹介を終えた後、それぞれに何らかのトラブルや困難に直面。そこからなんとかして問題を乗り越えていく様が描かれるのがドキュメンタリーの定石だと思っている。

ところが、この映画では、そういったことがほとんどない。前述の通り、ドキュメンタリーらしいストーリーを全うしたのはヤン・ルーベンくらいなもんだった。

ただ普通に仕事をして、普通にテレビ出演が決まったとかでクライマックスを迎えて、各々が各々の仕事を通じて、自己陶酔ぶりを披露するかのごとく「語り」が入る。

(マジックの哲学的な話が聞きたい人は同じ時期にAmazonプライムで配信された「Our Magic」を見るといい。とはいえ、こちらは日本語吹き替えも日本語字幕も、英語字幕もないけど)

IMDbの評価が6.2だったのもよくわかる。

鑑賞後、なんというか、これといって何の感情も湧かなかった。まあ、まあ、まあ、まあ、まあ…って言葉ぐらいしか出てこない。(心が死んでるとか言われそうだな)

けれども、唯一、マジック業界の非情さや試練、そしてアメリカンドリームを体現していたのはヤン・ルーベンの物語だった。彼らを追ったドキュメンタリー作品を1本丸々撮った方が絶対楽しめたと思う。

ラスベガスにおけるステージショーの現状とか、そうやって的を絞った方が良かったんじゃないのかな。

それに調べてみたところ、マネージャーのフランクは思った通り、ゲイだった。しかも、2015年6月にヤン・ルーベンと結婚していた

(この映画が2016年11月に初めて配信されたことを考えると、本当ならそのことについて触れていても不思議じゃないのだけど。あれ?字幕 見逃した?)

また、ヤン・ルーベンについてもう少し調べてみると、驚くべきことがわかった。

Las Vegas magician Jan Rouven charged with child pornography after FBI finds over 3,400 kiddie porn videos in his pool house | NY Daily News 
http://www.nydailynews.com/news/crime/magician-jan-rouven-charged-child-pornography-article-1.2569495

なんと2016年3月にヤンが児童ポルノ画像の所持容疑でFBIに逮捕されたというのだ。同年1月には家宅捜索が行われていて、PC上に3000本を超える児童ポルノ動画や100枚もの児童ポルノ画像が発見されたと伝えられている。

元々は2014年8月にファイル共有ソフトを使って、複数の男性たちと幼い男児との性行為が映し撮られた動画をFBIの覆面捜査官に送信したのがきっかけだそう。(小児性愛のネットワークでは、互いに違法動画を交換することはよくある)

映画の中で言われていたトロピカーナホテルでの定例公演も2016年3月中旬には終了を余儀なくされた。加えて、裁判所から罰金50万ドルを請求されたのを皮切りに、130万ドルで購入したあの豪邸も既に売却されたとのこと。

「なんという蛇足!」って感じの情報だが、逆にこの転落っぷりが今回の映画をより面白くしてくれた気がするのは、やはり心が死んでるせいなのかな。