イギリスのクロースアップマジシャン、ドミニク・レイエス(Dominic Rayes)はオンラインのマジックショップ「Merchant of Magic」の創業者でありながら、同名ブログの管理人としてマジシャン向けに多くの知見を提供している。今回はその中からマジシャンのポール・ナイト(Paul Knight)が寄稿した「ポケットマネジメント」に関する記事を紹介する。
Advice on Pocket Management | Merchant of Magic
http://blog.magicshop.co.uk/2012/11/advice-on-pocket-management-by-paul.html
ポケットマネジメントとは何か?
まだマジックについて何も知らなかった頃の話だ。あの夜のことは今でもはっきりと覚えてる。友人の紹介で私はある男Aに出会った。彼は会うなり「なあ、いくつかマジックを見てみないか?」と言い、私はそれを快諾した。
その当時、Aは不可能とも思える素晴らしいカードマジックを見せてくれたのだが、すべての問題はここから始まった。マジックが1つ終わり、Aはデックをポケットの中に戻そうとしたのだが、ポケットには収まらず、別のポケットにしまった。それから数分ほどもたついていると、今度はまた別のポケットから新しいデックを取り出してみせた。ところが、その拍子に同じポケットに入っていたシルクのハンカチが床に落ちた。Aはそれを拾い上げようと前かがみになると、今度は胸ポケットにあった数枚のカードとペンが床に落ち、男のペースは完全に失われた。
私は彼がマジック道具を拾い集めようとする姿を目撃したその瞬間、自分の中でAが素晴らしいマジックを見せてくれる好人物からただの男に成り下がるのを感じた。
このときの記憶はマジックを始めた後にも頭の片隅に重くのしかかっている。たしかに、マジシャンにとって第一印象は重要だが、その後の振る舞いにも気を配らなければ、私と同じ感覚を抱く観客は後を絶たないだろう。それになにより、Aが私の前から姿を消したときの光景は実に滑稽だった。マジック道具をいろんなポケットに押し込むもんだから、スーツが変な形に変形してしまっていたのはあまりにひどかった。
ポケットマネジメントのやり方
まずはマジックを見せるときの服装に着替えることから始めよう。
ごく一般的な小道具は次のように配置される。ズボンの片方のポケットに1デック、ジャケットの内ポケットにロープ、もう片方のズボンのポケットに数枚のコイン、さらにシャーピーペンをジャケットの胸ポケットに差し込む。ズボンのポケットには平らなもの(コインやトランプ)を入れるのがベストだ。これによって変なふくらみがなくなり、衣服をきれいに着こなすことができる。また、少しサイズのある道具や趣向の異なるマジックに関してはジャケットの内側のポケットに入れておくといい。
使う道具が決まったら、自分自身のルーティンについてよく考えてみてほしい。たとえば、そのマジックはリセットできるのか。道具の形が変化したり、消えたりしたときにそのギミックやカードは必ずどこかのポケットへ処理しなくてはならない。その際、専用のスペースはちゃんと確保できているか。使われる道具がどのポケットから始まり、最後にはどこに行き着くのかということを把握することは、ルーティンの全体像を掴むことに繋がるからだ。
ポケットを使い果たしてしまった場合…
これには対処法がある。たとえば、持っている小道具を仕切りとして使うことだ。ごく一般的なデックをポケットに入れていたとしよう。ここに2枚のコインを入れたとしても、デック自体を仕切りとして使えば、コイン同士が当たることはなく、音が鳴ることはない。仕切りという使い方でいえば、これはウォレットでも代用できる。
しかしながら、ウォレットの未使用のポケットにはギミックカードやパケットトリック、コインなどを入れるのにはあまり使わないでほしい。基本的にポケットマネジメントのゴールは物事をシンプルにすることを第一目標としているからだ。
最後に、シャーピーペンについてだが、私の場合、ジャケットの内ポケットにはいつも余分に2本入れている。なぜなら、シャーピーペンのキャップを利用して即席のカードクリップとして使っているからだ。
ポケットマネジメントによって何が得られるのか?
ポケットマネジメントは自分自身だけでなく、観客にとっても非常に大切なことだ。基本的に10~20分かけてパフォーマンスを身体一つで行うと、非常に魅力的なマジシャンとして映る。演技はスムーズになり、パフォーマンスは普段よりも何倍も向上するだろう。
トリックを習得するのと同じように自身の身体の動きも含め、1つのトリックだと考えてほしい。トリックにルーティンがあるようにポケットの出し入れの中にもルーティンがあると考えてほしい。
うまくいけば、こうした自然な流れは観客を自然にリラックスさせる効果へと繋がっていく。そして、こうした取り組みによって、パフォーマンスそのものに自信が持てるようになるのを自覚するはずだ。