錯視の可能性を再発見できる8つの視覚トリック


錯覚というのは、モノによっては実に退屈な代物だ。

2つの図形を見比べて、実はどちらも同じ大きさだったとか、線が曲がっているように見えるとか見えないとか。内容もだいたいパターンが決まっていて、自分の中で錯覚というジャンルに限界を感じたりしている人も案外多いのではないだろうか。

しかし、それこそが「錯覚」におけるある種の錯覚であるように思う。

そして、それを裏付けるかのように幾何学的な錯覚以外のネタが掘り起こされるやいなや、すぐさまSNS上で拡散される。最近だと、「青VS白に分断したドレス」とか「鏡に映すと形が変形する錯視」、「灰色なのにイチゴが赤く見える錯視」がそれにあたるだろう。

ところが、これらの錯覚はどれも拡散されるずっと以前からあったものばかり。(「青いドレス」に関しては、拡散元が意図せずにアップしたのが大きいからこれは別か…)

それでも、これはマジックのように古典的原理をアレンジして、周期的に世に出たりなんていうことではない。

実は、これら錯視(=イリュージョン)は毎年新作が発表されており、その事実について多くの人は知らないでいる。(関心がないといえばそれまでだが、前述のように出尽くした感があるのも否めない)

それを後押ししているのが2005年から続く「Best Illusion of the Year Contest」という世界規模の年間最優秀錯視コンテストだ。毎年、アーティストや科学者らが集い、優勝作品が発表されるたびにSNSで「訳が分からない~」とか言って話題になる。

主催しているのは神経科学者のスティーブン・L・マクニック(Stephan L. Macknik)とスサナ・マルティネス・コンデ(Susana Martinez-Conde)の2人。

もしかしたら、この珍しいスペルに見覚えがある人もいるかもしれない。彼らはマジックの原理を神経科学的に解説した共著「Sleight of Mind」は日本でも「脳はすすんでだまされたがる」というタイトルで邦訳されており、ダレン・ブラウンの公式サイトでは、2012年発行ながらも推薦図書の1つに数えられている。

というわけで、今回は新旧ともに「これは!」と思った8つの錯覚(イリュージョン)及び視覚芸術(=オブアート)について取り上げたい。

1: パレイドリア

パレイドリア(Pareidolia)とは、意味のないモノや形に対して、それが人の顔であるかのように認識してしまう心理現象のことをいう。これは顔を識別する脳の機能があまりに強すぎるがために生じる。

上の写真にはヒゲを生やした男の横顔がまるで心霊写真のように写っているかのように見えるが、実際に写っているのは赤ん坊だということがわかるだろうか。

では、赤い枠で囲うと、どうだろう?

心霊写真や幽霊を見たという証言も同じような心理現象で説明することができる。このようにパレイドリアは度々世間を騒がす一因となりうる。例えば、1970年代に火星探査機の衛星写真が一般公開されるやいなや、「岩の一部が人間の顔に見える」と話題になった(火星の人面岩)。

他にも、9.11の同時多発テロの際、報道写真家のフィリップス(Mark D. Phillips)は貿易センターに2機目の飛行機が墜落した直後に黒煙が立ち昇る様子をカメラでとらえた。

そのときの写真がコチラ。ビルの壁面に目鼻や口を携えた悪魔の顔が見える。

AF通信や新聞等に掲載されたこの写真は当時大きな騒ぎとなり、それに関するメッセージが3万件も寄せられたそうだ。翌年、テキサス大学エルパソ校のクレイノビッチら(Kreinovich & Lourinski)はこの写真とCNNの別の画像を照らし合わせ、この顔が生じた理由について幾何学的に解析した論文を発表。それによると、顔の形から目鼻立ちまで、火災から立ち昇る煙による当然の物理的かつ幾何学的結果であることが結論づけられた。

2: ホロウマスク錯視

ホロウマスク錯視(Hollow face illusion)とは、凹んだ顔を凸面のある顔として誤って認識してしまう錯視のこと。通常、顔というものは外に出っ張った形をしているが、我々は引っ込んだ顔を日常的に見慣れていない。そのため、凹んだ顔というものを正しく認識できず、上の動画のような錯視を引き起こす。

この現象を利用した有名な例として、「首振りドラゴン」(Paper Dragon Optical Illusion)がある。

この模型はペーパークラフトで作られており、同様の原理を用いて観察者が左右どちらに動いても、ドラゴンの視線が追いかけてくるように見える。また、このペーパークラフトはPDFで無料でダウンロードすることができる。しかも、折り方もYouTube上で解説してくれるからありがたい。

Three Dragons | Grand Illusions
http://www.grand-illusions.com/opticalillusions/three_dragons/

3: サッチャー錯視

サッチャー錯視(Thatcher illusion)とは、顔写真を上下逆さまにすることで、一部の顔が過度に変形していても気づかない錯視を指す。これは脳が人の顔を全体ではなく、目や口などそれぞれ部分的に認識していることを意味している。イギリスの元首相、マーガレット・サッチャーが使われた理由は、元々他のサンプルも用意していたのだが、錯視の作成において、サッチャーの顔の錯視が最も顕著だったことに由来する。なお、数年前までこの錯視を利用したマジックが販売されていた。(サッチャーの画像が見飽きてしまい、錯視が働かなくなってしまった方はコチラもどうぞ)

4: 補色残像現象

これ知ってた?【ナショジオトリビア – 色覚編】見る人によって違う色に見えるドレスの写真が話題ですが、そもそも色とは?なぜ色は見えるのでしょう?この動画は、脳と色の不思議な関係を体験することができます。★動画の見方 : 動画を再生したら、真ん中の黒い点に目の焦点を合わせて、その点だけに集中してください。途中で白黒画像に変わります。しかし切り替わったあとも、その点に集中して画像を見続けると、数秒間、カラーで見えるはずです。ここで見える色は、脳が作り出した色です。実際には存在しない色が見えるからくりは?イェール大学のブライアン・ショール教授に聞いてみました。「同じ色を長く見続けると、その色を感知する視細胞が疲労し、反応が弱まります。例えばオレンジ色のものを見続けると、オレンジ色を感知する細胞が疲れてしまいます。画像が白黒に切り替わると、その色の補色を感知する細胞が、逆に活発になります。オレンジ色の補色は青色なので、オレンジ色が消えた時、その部分が青い残像となって見えるわけです。」———————————–もっと脳の事を知りたい人におすすめの番組ナショジオに新シーズン登場!『脳トリック3』 5/2(土)19:30 放送開始(予定)★脳の驚くべき仕組みのほか、自然、野生、宇宙、化学、探索、歴史など秀逸なドキュメンタリー映像で、この地球と宇宙の全て「ありのままの世界を」お届け!ナショナル ジオグラフィック チャンネルhttp://goo.gl/WscLYX

ナショナル ジオグラフィックさんの投稿 2015年3月4日

※ 動画を再生したら、真ん中の黒い点に目の焦点を合わせて、その点だけに集中してください。途中で白黒画像に変わります。しかし、切り替わった後も、その点に集中して画像を見続けると、数秒間、カラーで見えるはずです。

補色残像とは、ある色をしばらく見た後、その色を消すと、視覚上にはその補色となる色が残像として現れることをいう。この動画の場合、最初に海の色(=青色)とは正反対の色であるオレンジ色を見せ、次に全体を灰色で覆い、それらの色を消してみせる。すると、オレンジ色の補色である「青色」が残像として現れ、モノクロ写真に青い海が広がって見えるというわけだ。


 
5: ヴァニタス

アメリカの挿絵画家、チャールズ・ギルバート(Charles A. Gilbert, 1873~1929)による1892年の「すべては空しい」(Aill is Vanity)という作品。

見てわかるとおり、この絵画の中には化粧台に座る婦人の姿とドクロの2つのイメージが描かれている。ヴァニタス(Vanitas)とは、16世紀~17世紀にヨーロッパで多く描かれた絵画ジャンルの1つであり、絵の中に「人生の空しさ」という名の隠喩を埋め込み、観る者に美しさや若さの中にも常に死がつきまとうという虚しさを気づかせることが狙いだ。そして、その多くが死や虚無、儚さを象徴とする「ドクロ/頭蓋骨」が挿入される。

ギルバートの絵以外にもヴァニタス関連の絵は豊富にあり、それらは写真共有サイト「Pinterest」にて、一挙にまとめられている。(なお、このページでは、ヴァニタス以外にパレイドリアともとれる錯視図等が入り乱れている)

6: アナモルフォーシス

アナモルフォーシス(Anamorphosis)とは、歪曲した絵を特定の角度から見ることで、正しい形に変形するデザイン技法をいう。嬉しいことに、この動画に登場するルービックキューブやテープ、そしてシューズといった画像を無料でダウンロードすることができる(A4印刷を推奨)。

Mind-blowing Anamorphic Illusions by Barasspup | boredpand
http://www.boredpanda.com/anamorphic-illusions-brasspup/

アナモルフォーシスの有名な例というと、ハンス・ホルバイン(Hans Holbein)の「大使たち」(The Ambassadors)が挙げられる。これは絵画の下に灰色の棒状のものが描かれているのだが、左斜め下から見えると、人の頭蓋骨が見えるようになっている。

7: ハーマングリッド現象

こちらは去年9月にSNSで話題になった錯視で、どこに焦点を当てても、黒い点で現れるというもの。元々は2000年に発表されたもので、原理としては「ハーマングリッド現象」(Hermann Grid illusion)の派生形とされている。何もこの画像が特別に設計されているというわけではなく、複数の画像を隙間を空けて縦横に並べた場合にも生じることから、デザインの世界ではよく知られた心理現象でもあるようだ。

8: Two Face Optical illusion

この写真はアメリカで最も有名なマジシャンとされるハリー・フーディーニの加工画像。「Two Face Optical Illusion」とは、見てのとおり、1枚の顔写真の中に正面からみた顔と横向きの顔がまるで混在しているかのように見える錯視だ。何も説明しなければ、当時の前衛的なポスター写真かと思ってしまいそうになるが、残念なことに考案されたのは2011年のよう。

作り方は横顔の輪郭をフレームとして見立て、それにしたがって正面の顔を切り取ることによって作られている。また、YouTube上では、フォトショップを使った加工方法が動画で解説されている

Twitter: Optical Illusion

これは世界中の錯視や視覚芸術、さらには面白?スゴ技?関連の画像やGIF形式の動画をツイートしてくれるアカウント。見る度に「よくネタが尽きないな」と思うほど幅広く、「それ関係なくね?」って思うものもチラホラ…。

最後に・・・

それまで錯視というと、「だまし絵」や「隠し絵」という言葉にあるように芸術家たちが何百年も前から考案されてきたが、最近は科学者たちの手によって神経科学的にそのメカニズムが解明されつつある。それでも、二次元の絵の中に三次元を創造し、視覚科学の基本原則を発見したのは科学者ではなく、他でもない芸術家だ。

そして、似たような構図はマジックの世界でもはびこっている。最近(心理学でいうところの最近)、マジシャンがどう観客の注意をコントロールしているかが明らかになってきている。催眠術もまた同様だ。

だからといって、芸術の方が、マジックの方が科学よりも優れていると考える奴がいる。そんなのは全くお門違いな話だ。これらは同じことを語る、異なる言語だと私は思っている。初めてその事実を発掘したのは確かに芸術だろう、マジックであろう。だが、彼らでさえわからないことがあるのも事実だ。それこそが「なぜそうなるのか?」というメカニズムに関わる部分。それぞれに独自の言説はあるだろうが、それが真実であるという確証はない。そして、それを知ることができるのは科学だ。基礎から応用へ、応用から基礎へ回帰し、広がりをみせるのもまた科学あっての話だ。

だからといって、別に科学の方が優れていると言う気も更々ない。まだ語彙力に問題を抱えている幼子だと思ってほしいだけなのだ。

こうした錯視に関する知識がパフォーマンスに真に活かされることは、まあ少ないだろう。「知覚」をモチーフにしたメンタル系のショーでもやらない限りは。それでも、こうした錯視や視覚芸術は1つのプロモーションアイデアとしては面白いと思う。もちろん、マジシャンという意味で万人受けしないだろうがね(笑)