バナチェックが語る 「変わりゆくマジックの行く末」


メンタリストのバナチェック(Banachek)が久々にブログを更新した。彼のブログ「Banachek’s Journey Into The Mind」は年に1回ほどしか更新されない超不定期の放置ブログだ。そんな彼のブログが11月23日に今年2回目の更新を迎えたのはあるネット掲示板の投稿が理由だという。

The slow death of magic as we know it, or just another change in art?
http://banacheksblog.blogspot.jp/

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以前、「マジックが変わってしまった」と嘆く投稿が話題になったが、それが今もなお悪化の一途をたどっている。例えば、現在、メンタリズムの多くがマジックと混同していることには驚かされた。何年か前までは、そうでもなかった。メンタリズムをマジックのように見せるためだけに、単純にこの2つを組み合わせるのはどうかと思う。これによってミステリーさは取り除かれ、メンタリズムを呼ばれる進化したマジックの形を安っぽくしてしまった。その原因として、よくデビッド・ブレインやクリス・エンジェルの名前が挙げられている。私たちは信仰や考え方に影響を与えるためにやっているのではない。人々と笑顔にさせ、拍手をもらい、ほんの少しの時間、日常から乖離させることが目的なのだ。

その投稿によれば、アートにはルールが必要だと言っていた。ある人の投稿を引用しよう。

「アートは制約(=limit)がなければ、生き残ることはできない。直感に反しているように聞こえるが、それが真実だ。クリエイティビティを発揮させるにはまさに境界線、すなわち基準が必要になってくる」

私は制約なくしてアートは生き残ることができないとする考えには同意しかねるが、最後の基準やルールの必要性に関しては、まさしくその通りだと考えている。ルールは確かに必要だが、それはアートにおける初歩的な入口でしかない。これは絵を描くために必要なペンやキャンバス、技法が揃っていたとしても、必ずしも良い絵が描けるわけではないのと同じことだ。

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私自身、アートはルールを打ち破ることによって成長するものだと信じている。(とはいえ、それは全てのアートに言えるというわけでもない)

新しいアートが見出され、創られ、そして固定概念をぶち壊すことでこそ、アートは進歩できる。もしそうでなければ、ダリやルノワールはいなかっただろう。アンドレ・ブルトンのシュールレアリズム宣言やピカソのキュビズムといった作風はそれまでの絵画のルールを覆した。多くの画家はその時代のルールを破ることで歴史に名を残してきたといえる。視点や内容、構成などがすべてに手を加えられていった。こうした反政府的な活動がなければ、今日の素晴らしくも、自由な芸術作品は誕生していなかっただろう。また当時、このような考え方は多くの芸術家に衝撃を与え、冒涜だとみなされていたことも忘れてはならない。

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こうした歴史は絵画だけにいえることではない。かつてルールに縛られたクラシック音楽がヒップホップへと発展を遂げたように音楽の世界でもそれは同じだ。SFやファンタジー小説もそれまでの固定観念にとらわれずにクリエイティビリティを発揮したからこそ生まれたジャンルでもある。

私はアートに限界がないからこそ、ここまで生き残っているのだと思う。例えば、私の祖父母は当時、ビートルズを嫌っていた。特定のジャンルの音楽に聞き慣れていた古い世代だからか、彼らの音楽が受け入れられなかったのだ。そういう意味では、私たちは何も変わっていない。きっと今後も新しい音楽の形、新しいアートの形が登場するたび、それよりも前の世代で同じことが起きるだろう。

ダライ・ラマ曰く、「ルールをよく知っていれば、ルールを効果的に破ることができる」

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パブロ・ピカソ曰く、「プロのようにルールを学べば、アーティストのようにルールを覆すことができる」

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もしルールを破らなければ、メンタリズムの世界にはきっとダニンジャー(Dunniger)やクレスキン(Kreskin)は現れなかっただろう。あるいは、私がやっていたかもしれない。

実際、多くの人から「ここに偽のメンタリストの居場所はない」と言われたことがあった。その後、APCA(Association for the Promotion of Campus Activities)のエンターテイナー・オブ・ザ・イヤーを2年連続で受賞したことを指摘すると、「バナチェックは例外」とまで言い出した。

マジシャンであるダグ・へニング(Doug Henning)は伝統的なマジシャンの衣装を根底から覆し、ヒッピーのような服で登場し、マジックのスピリチュアルタイプと呼ばれる演技を行った。

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また、デビッド・カッパーフィールドはオシャレな服装を好み、デビッド・ブレインはテレビでマジックが見れる環境を整わせ、クリス・エンジェルはゴスチックな見た目やストリートで大型のイリュージョンを行うなど数々のルールを覆してきた。

勘違いしないでほしいのだが、自分のルールはすべてきちんと守れと言うつもりはない。私自身、純真なメンタリズムをずっと追い求めている。

今日、マジックのルールに大きな変革が起きていることを祈っている。多くの人にとって、それは悲しいことかもしれないが、いずれそれが素晴らしい結果に繋がることを心待ちにしている。