【レビュー】MRIペンデュラム by バーディ


11月17日、バーディ(Birdie)の新作「MRIペンデュラム」が発売されるやいなや、瞬く間に売り切れになる店舗が続出。その後に再入荷されるも、発売から2週間後にはすべての取扱店(フレンチドロップ、フェザータッチ、I-MAGIC、ストリートマジシャン)で再び売り切れ状態となった。

さて、本作の現象は観客が選んだカードを裏向きの状態から、観客自身がペンデュラムを使って順にかざしていき、当てるというもの。

振り子を使ったマジックというと、誰もがまず観念運動を思いつく。もちろん、これもそうだ。だが、今回のDVDがこれだけ注目を集める理由は、それだけでは説明できない現象があるのが1つ。加えて、そんな一般に知られる原理にもかかわらず、なぜか「エグい」と評するレビューがフレンチドロップで乱立したことが人々の関心を集める所以だろう。

そこで、今回は私、自称メンタル好きの観点からバーディの「MRI Pendulum」のレビューを書いてみる。

まず、「観念運動」や「振り子」と聞くと、やや冗長的な手順を想像しがちだが、MRIではそうは感じさせないスムーズな流れで構成されている。その手順はまさしくマジシャン的とでも表現すべきか、実にシンプル。無駄がなく、配慮が素晴らしい。

そして、多くの人が「エグい」と表現する所以は裏向きの状態で振り子を動かす際のある策略が関わっている。それはまるでピーター・ターナーのBob原理を彷彿とさせる狡猾な方法だ。もちろん、これが上手くハマらなかった場合に備えて、あるいは振り子の反応をより強くする目的として、一部暗示との併用も指南している。

だが、暗示を使わずとも、本当にその策略だけで現象が成立するのか…つい疑問を感じてしまった。これはトリックの根幹に関わることなので詳しくは語れないが、裏向きの状態で振り子が動く理由を本当にその策略だけで説明しきれるものなのか疑問に感じたのだ。別にこれはDVDで解説されている内容が再現できないという意味ではなく、あくまでその事象が成立する過程の根拠の話にほかならない。言うなれば、観客の集中力の欠如というごく初歩的な問題を考慮せず、より高尚な理論を高尚に語る姿に疑念を感じただけだ。

結局のところ、このような若干の消化不良が生じた理由はDVDの収録時間が24分しかなかったからだろう。これは前シリーズのヒプノティズム・ベンドの3分の1に相当する。新たなコンセプトを打ち立てたと声高々に言う割には(暗示による観念運動自体、前からあったけど)、そうした細かな点についてはそれほど掘り下げられていない。付け加えていえば、これはペンデュラムや観念運動から催眠へ移行する術などについても、ほぼ語られちゃあいない。そのため、それらを合わせて考えてみると、前シリーズに比べて、その内容の軽薄さに少々がっかりしたと思う人もいるかもしれない。

個人的に非常に残念だったのは観念運動が生じる理由について、「不覚筋動だから」「観念運動だから」という説明に終始していたことだろうか。これに関しては、いろんな文献を読んでも一説程度にとどまっていることが多く、またバナチェックの「Psychophysiological Thought Reading」でもそれは同じだから、まあしょうがないかな。

とはいえ、今回、「バーディ」というブランドでマジック界に観念運動を広めてくれたのは良かったと思う。DVDでは、まさしくプロマジシャンが指南する、観念運動を使ったルーティンという感じで非常に良い。ただし、振り子を使った被暗示性の見極めに関する観客の扱いには少々勘にさわるものがあったが、あれは彼が関西の人間だからなのかな…。これについては誰が見ても同じことを思うだろうから、特筆すべきことでもないか。

【総評】

彼は裏向きの状態で観客が当てる手順こそが「マジシャン殺しの現象」だとしているが、私としてはマジシャンをどう定義しているのかによる誇大広告だと思った。もし、ここでいうマジシャンが「これまでカードマジックしかしてこなかった堅物」ならば、十分にその手の奴らを殺せるだろう。だが、観念運動やその手の暗示について少しでも知識がある人なら、「えっ!?それだけ?いや、でも…」的な末路が待っている。

無論、それ以外の人々にとっては、拍手喝采の最高の1ネタを手に入れることができるはずだ。