2016年4月、大阪大学の中野珠実 准教授はイギリスのハートフォードシャー大学のリチャード・ワイズマン(Richard Wiseman)博士と共同研究で行い、「マジックとまばたきの関係」について科学的に初めて明らかにし、アメリカの科学誌電子版「PeerJ」に発表した。
人々がマジックにだまされる謎を科学的に初めて実証 | 大阪大学
http://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2016/20160404_1
Blink and you’ll miss it: the role of blinking in the perception of magic tricks
https://peerj.com/articles/1873/
本研究によれば、研究チームは体のあちこちからコインを取り出すマジシャンの映像を被験者に見せ、目の動きを近赤外線カメラで撮影。被験者全員がほぼ同じタイミングでまばたきする瞬間があった。しかも、その瞬間こそがマジシャンが次のトリックを仕掛けを用意するところと一致していたことがわかった。
つまり、本研究によってミスディレクションの1つである「オフビート」が科学的に初めて実証された形となった。
オフビートとは、演技に緩急をつけて観客の高ぶった注意を一時的にそらし、その間に何らかのトリックを仕掛けていることをいう。
中野准教授のチームは、これまでの研究で映像に見ている人がまばたきをしたときに、注意を司る脳領域である前頭眼野と上頭頂小葉の脳活動が一時的に減少することを突き止めていた。このため、「注意の緩み」がマジックの仕掛けに利用されているのではないか、という仮説から本研究の立案に至ったようだ。
そして、今回実験で使われたマジック動画とは、ペン&テラー(Penn&Teller)のテラーによって行われた「マイザーズ・ドリーム」(Miser’s Dream)というマジック。下記の動画は実際に実験で使われた元の映像であり、英語が分からずとも十分に楽しめる。ぜひとも一度見てみてほしい。
実のところ、ミスディレクションに関する研究はこれが初めてではない。本研究のイントロダクションでも挙げられているが、マジック関連の論文は案外多かったりする。また、日本でもこれに関連した研究が報告されており、東京大学大学院の2015年論文では、「右手を見てほしかったら、自ら右手を見ればいい」という格言を地で行く研究が発表されている。
マジック状況における人間の顔や視線方向への偏重注視
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcogpsy/12/2/12_69/_article/-char/ja/
とはいえ、我々マジシャンからしてみれば、「緩急」と「オフビート」の関係などは神経科学が誕生する以前から知っていたことだと言いたくなるかもしれない。だが、この「科学」というクリーンさを盾に今一度、マジックに対するイメージの改善を図るには格好の材料(サトルティ)といえるのではないだろうか。
ちなみに、今回ご紹介したオフビートの研究「Blink and you’ll miss it: the role of blinking in the perception of magic tricks」は以下のリンクから無料でダウンロードすることができる。(https://peerj.com/articles/1873/)