【ゴットタレント】一卵性双生児のマジシャンが放つデジタルイリュージョン


6月13日(現地時間)、オーディション番組「America’s Got Talent」に登場したあるフランス人マジシャンが、ありそうでなかったマジックを披露していたので取り上げてみようと思う。

Tony and Jordan: Identical Twins Dazzle With Magic – America’s Got Talent 2017 | YouTube

彼の名前はトニー。フランス出身の21歳。

審査員から「両親はマジックについてどう思っているのか?」と聞かれると、彼は正直に「両親はマジックに反対だ」と答える。彼曰く、両親はもっと普通の仕事に就いてほしいと考えているようで、今回の出演を機に両親に認めてもらいたいという。

演技がスタートするとともに、トニーは大きなスクリーンの背後へと向かっていく。

すると、すっぽりと画面の中に入り、いかにもそれが現実であるかのように見せる。

スクリーンの中で2人に分裂したかと思いきや、彼が本当に一卵性双生児だったことがわかり、審査員も驚く。

お前は誰だと言わんばかりにお互いを見合う2人。

落ち着いたかと思ったら、今度は何やらスクリーンに線を引き出す。

2本を重ねると、それが女性の輪郭に。

ところが、女性は下着姿で服を身に着けていない。

これに慌てた双子は赤いハンカチを取り出す。

そして、ハンカチをスクリーンに向けると、スルスルと吸い込まれ、女性のドレスへと形を変える。

次に電球を取り出すと、スクリーンの中へと放り込み、本当に電球が画面の中に入ったかのように映し出される。

そして、真っ暗闇の世界に電球は太陽へと姿を変える。そこから間髪に入れずに黄色い風船を取り出すも、一瞬で風船がスクリーンの中へ。

しかし、風船はみるみる増えていき、双子は彼女を助けようと奮闘。スクリーンの上部にはちゃっかり本物の風船がはみ出している。

双子は紙袋から四次元ポケットのようにはしごを取り出す。

なんとかはしごをかけて彼女を救おうとするが、長さが足らず、放り出してしまう。

こうしている間にも次々と風船が割れてしまうが、運良くスロットマシーンの前に落ちる。そこで、双子はスクリーンからスロットマシーンのレバーを直接取り出してみせる。

双子はレバーを引いてみせて、現実世界から何かしらのはたらきかけようとする。

すると、スクリーン上部でスロットが回り、3人の顔が一致。

それに伴うかのようにスクリーンの中で札束が舞う。そこへ双子の1人が透明なケースを取り出すると、札束がみるみるケースの中に吸い込まれていく。

キレイな夜景を目の前に双子の1人がスクリーンにハートを描き、弓矢のジェスチャーで夜空に花火を打ち上げる。

しかし、突然、傘が飛び交うような嵐がやってくる。

スクリーンの中にある傘からその実物を取り出してみせるが、傘が小さいため、別の手段に。

そこで、双子の1人が画面から灰色の部分を抜き去ってしまおうと考え、ようやく嵐は去る。

空は晴天に変わったが、彼女はびしょ濡れ。そんな彼女をドライヤーで乾かそうとする(笑)

それでも乾かなさそうなので彼女を布で覆い、タオルのように一気に乾かすのかと思った次の瞬間。

スクリーンの中にいた女性が現実に登場。

しかも、もうひとたび布で覆ってみせると、今度は彼女に似通った容姿の女性がもう1人現れ、双子にあったダブルカップルが誕生。物語は完結する。

双子の正体:Les French Twins

彼らは「Les French Twins」というコンビ名で活動する双子の2人組マジシャン。同番組にはTony and Jordan」として出場しているが、明確に名義を使い分けているというわけでもなさそう。

今回のデジタルイリュージョンは同番組で初めて行ったというわけではなく、昨年のフランス版のゴットタレント「La France a un Incroyable Talent」に出演した際にもデジタル技術と組み合わせたマジックを披露していたことがわかった。なお、フランス版ではファイナリストまで上り詰めた模様。

また、「Les French Twins」名義で既に5つの作品を発売しており、例えばこんなものがある。

Magix by Les French Twins & JeanLuc Bertrand

これはカードが何のカバーもなしに一瞬で未開封のコンドームに変わってしまうというマジック。しかも、中にはコンドームではなく、折りたたまれたカードが入っているという仕掛け。カードにはスペードの6、ハートの7、ダイヤの10、クラブの3の4種類。一箱12個入り。

同じような現象でティーバッグを使った作品も出している。

Instant T by Les French Twins

こちらは「Magix」よりも万人ウケするだけでなく、一箱に50個も入っていて本物のティーバッグと同じくらいのボリュームだ(笑)

最後に…

さて、私が冒頭で言った「ありそうでなかったマジック」という意味がお分かり頂けたであろうか。

彼らが使っているマジック道具は我々からしたら、実に普通だ。何の変哲もない。

何かをただ出現させる、消失させるというマジックはたくさんあるわけだが、それを単発で見せれば見せるほど、退屈さが増していく。

だから、何らかの関連性やストーリーをパズルのように組み合わせることはできないものかと考える。道具は何種類もあるんだから、きっとできるはずだと。

そんな野望・妄想を今回、あの双子は見事にやってのけた。

私自身、ステージ系のマジックはやらないどころか、あの棒(ステッキ)がどういう仕組みで出てくるのかもわからない。それでも、彼らのマジックにはつい感心してしまう。

ちなみに、大型スクリーンを使った他のマジックも見てみたのだが、やはりあれが一番良い。

他のはストーリーとマジックと映像のトリックが調和せず、マジックの要素が薄くなっている気がする。

1つのショーとして面白いのだが、マジックショーとは違う気がするんだ。

それでも、そこをあえて「デジタルイリュージョニスト」として言葉を変えることで、そうした問題をどこかうやむやにしてしまえるのだから、不思議なものだ(笑)

そういう意味では、アメリカンズ・ゴットタレントの演技は実にバランスの取れたマジックらしいデジタルイリュージョンだった。

Fighting Game // Tony and Jordan | Vimeo