ゴスペルマジックとは?
ゴスペルマジック(Gospel Magic)とは、マジックを通して、キリストの偉大さや聖書の教えを伝える、クリスチャン向けのマジックをいう。
ここで勘違いしてはならないのは、ゴスペルマジックはメンタリズムの派生などではないということ。会場は主に教会やチャペルといったクリスチャンたちが集まる場で、内容は真剣そのもの。そのため、けっしてパフォーマンスが自身の超常的なパワーによることや霊魂の存在を匂わせてはならず、あくまで、ストーリーマジックとして行うことが基本だ。
ゴスペルマジックの最大の特徴はショーの中にプラスαとして、神からの恵みを誉め讃える「証」が入ることだ。「証」とは、自身の実体験などを説教のようにクリスチャンたちに伝えることをいう。それゆえ、必然的にゴスペルマジシャンの多くがクリスチャンとされている。
もちろん、聖書の教えをマジックを通して再現する行為には抵抗をもつ人もおり、これには賛否両論がある。また、パフォーマンスの方向性を間違うと、冒涜とも捉えられないようなデリケートな分野である。
こうした点から日本では、定着しづらいジャンルと考えがちだが、下の記事によれば、どうやら完全に門前払いされる文化というわけではないらしい。
驚きと感動を届けるゴスペルマジック 関西を中心に活躍するマジシャン・フーガさん | CHRISTIAN TODAY
http://www.christiantoday.co.jp/articles/16742/20150809/magician-fuga-gospel-magic.htm
日本の教会でも、クリスマスなどの特別な日などには聖書をテーマにした演劇を行うことがあり、これはそのマジックショーバージョンとして今後普及していくかもしれない。
ゴスペルマジックにおける演者不在問題の親和性
「演者不在問題」とは、アウト・オブ・ディス・ワールドなどの偶然の一致をテーマにしたマジックにおいて、演者がその現象に介在したことを観客たちに示さなければ、マジシャンとしてその場にいる意味がないとするジレンマのこと。
これはマジシャンの哲学的問題に思えるかもしれないが、実際に演者の存在をよそに「俺がすごいんじゃね?」と冗談半分で騒ぎ立てる輩に不満を持つ者がいる。無論、この問題への見解は人それぞれで、その観客の民度が出るだけだと切り捨てる者や必ず観客に何かしら提示するべきだと金切り声をあげる者もいる。
そうはいっても、アウト・オブ・ディス・ワールドはその昔、相手の直感をコントロールするという演出で行われていたそうだが、こうマジシャンの存在を提示し過ぎるのも蛇足な感じがしてならない。
しかしながら、ことゴスペルマジックに関しては、この演者不在問題が功を奏する。
前述のとおり、ゴスペルマジックはその演出方法についてデリケートに扱わなくてはならない。もちろん、その手の説明については全く触れずに淡々とショーを進めることもできるが、あえて現象に演者が介在しないことで、ゴスペルマジックっぽさを演出することができると思う。
例えば、教会設立65周年を祝う会にて、魔方陣のパフォーマンスを行うとする。
まず、周りにいる教会関係者(神父やシスター等)に好きな数字を聞く。次に、その他の客席にいる人たちにも同じように数字を適当に言っていってもらい、それらをホワイトボードに書き留める。
その後、何の脈絡もなさそうな16個の数字にマス目を作り、エフェソの信徒への手紙第2章20~21節を引用し、人々とのつながりや教会の重要性を強調。
そして、これら適当に選ばれた数字を縦、横、斜めとそれぞれ足していくと、いずれも記念すべきあの「65」という数字に行き着くことがわかり、演技終了。
これがゴスペルマジックとしてアリなのかどうはは少し怪しいところだが、いろんな人が思い思い言った数字が合わさったとき、1つの意味を為すのは中々面白いものだ。
このほか、サッカートリックにおける失敗を「間違いはいつでも正すことができる」というメッセージを伝えるのに役立つし、マジックとストーリーを組み合わせるという意味では、種明かしというプレゼンテーションの中にも「証」を盛り込むことは十分にできる。
こうやって考えてみると、いちジャンルとして確立されているだけはあると、納得できてしまう。
当然ながら、海外では、この種のテーマを扱った資料に富んでおり、あらかじめ説教が用意された手順さえあるのだから驚きだ。しかも、「Magic Cafe」には専用フォーラムが用意されていて、研究のしがいがある分野でもある。
下の動画はマイク・ブリス(Mike Bliss)による「Chemical Cross」を使ったゴスペルマジックの様子だ。おそらく、最初に思ったゴスペルマジックの印象よりも、幾分現代的な感じではないだろうか。(っていうか、彼のTシャツかっこいいな)
実のところ、今回、私がゴスペルマジックを取り上げた理由は度々囁かれるマジシャンとしての個性云々よりも、まずどの市場に目を向けるのかも併せて考えるべきだと思ったからだ。きっと、これ以外にも私たちの知らないマジックが既存のマーケット上に眠っているのだろう。