人工知能(AI)が将棋や囲碁で人間の知性を上回ったとするニュースが飛び交うたび、テレビメディアではその手の特集が組まれ、小説を書いたり、絵を描いたり、音楽を作曲したりなど、人工知能が生成したものに年々注目が集まっている。
2014年にはイギリスで人工知能にマジックを創作させるなんていう研究もあった。
その当時、実際に2種類のマジック(数理パズル「Twelve Magicians of Osiris」とカード当てアプリ「Phony」)を作らせることに成功。
うち1つはロンドンにあるマジックショップで販売され、現在は完売。もう1つはスマホアプリとしてGoogle Playからダウンロード購入することができる。
そして2017年8月、同研究グループが数理トリックに重きをおいた研究から一歩進んで、今度はメンタルマジックの原理発掘に一役買ったとする論文が発表された。
AI Helps Magicians Perform Mind-Reading Tricks | IEEE Spectrum
https://spectrum.ieee.org/tech-talk/computing/software/ai-helps-magicians-perform-mind-reading-tricks
The magic words: Using computers to uncover mental associations for use in magic trick design | PLOS One
http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0181877
共著者の一人、ロンドン大学クイーン・メアリー校のピーター・マコーワン教授は2005年に友人とともにコンピュータ科学に関係するあらゆる事柄について情熱を注ぐファンの集い「CS4FN」を設立。
その中で、彼は「コンピュータサイエンス×マジック」をテーマにした無料の電子書籍を制作してしまうほどの無類の愛好家でもある。
The Magic of Computer Science: Card Tricks Special | CS4FN
そんなマジックを知る人間が今回、研究に際して次のようなプロットを考案した。
現象プロット
演者は観客を迎え入れ、挨拶代わりに名前を尋ねる。演者は彼の名前(例:フレッド)を手持ちのパッドにメモし、早速演技がスタート。
テーブルの上には16枚ずつに分かれた2種類のカードの束がある。一方には様々なイラストが描かれ、またもう一方には各々違った単語が印字されている。
演者は2つの束をそれぞれ混ぜ、各束から4枚のカードを裏向きに選び出してもらう。次に、計8枚となったカードからイラストと単語のペアになるように好きに重ねてもらう。
その後、2枚のペアを表向きにしてみると、「太陽」の絵と「RAIN(雨)」という単語が顔を出し、そこには明らかな関係性が見て取れる。
演者はおもむろに先程メモしたパッドを取り出してみせると、そこには「今日のフレッドは天気に関心があるようだ」と予言されていた。
原理
通常、このようなマジックでは、カードをコントロールする数理的原理よりも、実際にどんなイラストを、またどんな単語を使うのかが最大のカギとなる。
そこで、マコーワンはイラストと単語の組み合わせを自動的に抽出するアルゴリズムを作成した。元となるデータは事前に行ったオンラインアンケートとインターネットからの情報探索の2つを採用。
これと並行して精度をより高めるために、彼は自然言語処理に対応したAIを開発した。
そこでは、人気ブランドをネット検索し、上位10個の検索結果からはじき出されたウェブページを対象に単語を抽出。次に以前に開発していた検索アルゴリズムを使って、集めたデータを特定のカテゴリーに整理し、順位づけを行った。
加えて、Word2vecやWordnetといった自然言語処理ツールに利用し、単語の類似性を評価した。
残念ながら、分析の過程で人の助けなしには必ずしも有用なデータをもたらすことはなかったとしつつも、今回時間のかかる実験的な調査でありながら、時間の節約にはなったとのこと 。共著者のウィリムズ曰く、データの質と量はトレードオフの関係にあるとの見解を示した。
こうして完成したリストは、今回「食べ物」をフォースすることを意図して作成され、実際にイギリスで開催されたサイエンスフェアで143人を対象に実地テストが行われた。
結果、143人中128人が意図した関連性に気づいたと報告している。(成功率:89.5%)
“プロット止まり”のアイデア
マジックの創作にハマっていると、時折プロット止まりの草案から抜け出せなくなることがある。
例えば、北原禎人著「The Surgical」に収録された《Pho Grille》が挙げられる。
観客がシャフルした写真の束を4つに分け、それを広げて持って貰い、演者がキーワードを言いながら写真を捨てていって貰う。最後にそれぞれの手元に残った写真をショウダウンするとその4枚でしかありえない見てすぐに分かる共通性がそこに存在している。(商品紹介より)
実はこれ、いかにも作品集の1つとしてカウントされているが、実際はただのプロット止まりの代物だ。
使われる写真を具体的に例示することもなければ、具体的にどんな質問をして、どんな結果に行き着くのかも、フローチャートも一切触れられていない。
一読者からすれば、ただの机上の空論にすぎないわけだ(悲)
だが、言い換えれば、これも本研究と似た方法を使えば、一挙に解決させることができるのでは?ということ。
さらにいえば、同じ苦難に見舞われたアイデアも将来的にはこうした”手品製造機”にぶち込めば、何かしらの解答が得られるかもしれない。
今回の研究では、あくまで「関連づけ」が焦点におかれていたが、マコーワンは今後、統計的事実や心理トリックを利用したコールドリーディングへの応用を示唆している。
いかにもエンターテイメント寄りの論文にありがちな締めくくり方だが、個人的にはサイコロジカルテストの発掘に期待したい。
サイコロジカルテストとは、ある質問をしたとき、ほとんどの人が同じ答えを口にするというメンタルマジックの用語である。
そのうちのいくつかが一時期、海外のSNSで拡散されたこともある様子。
98%の人が同じ答えをする不思議な足し算テスト。残り2%は「変人」の可能性あり | Jonny
英語圏にはこうした最初から答えがわかっている質問法というのがたくさんある。
(色、二桁の数字、動物、野菜、観光名所など、もはやチートレベル)
その中で、日本人に使えるものはごくわずかとなっているのが現状だが、同じように外部の実験データやSNS、インターネットを使えば、それまで埋もれていた日本人特有の何かを新たに発掘することもそう難しくないだろう。
「十分に発達した科学技術は魔法と見分けがつかない」という言葉があるように、いずれ至高のメンタルマジックというものは各人のアイデアや経験からではなく、AIの頭脳から生み落とされる日がやってくるのだろうか。
心に思った人物を言い当てるアプリ「アキネイター」
余談だが、「アキネイター」を知っているだろうか。
20個程度の質問で心に思った有名人の名をコンピュータが言い当ててしまうゲームアプリだが、あまりにも精度が高いことで知られている。
ランプの魔人があなたの心を見通します – Akinator
http://jp.akinator.com
(「ヒューミント」を書いた誰かさんも《アウストラロインデックス》とか言って、そんなのを頭の中だけでやってますとか言ってたっけ…。結局、バージョンが常に更新されてるって理由で、またもや核心部分に触れることはなかったけれど)
公式にはどのような仕組みになっているのかは明かされていないが、20の質問ゲームを基にしている時点で、これも一種のAI技術が使われていると推測できる。
別バージョンとして、iOS限定のアプリで日本国内に特化した場所当てゲームもある。
App Store:アキネイター日本めぐり/Akinator VIP(有名人当ては有料)
Google Play:Akinator(有名人当て。Androidは無料)
質問に答えているうち、あまり関係のない質問が続いたと思ったら、いきなり核心を突かれ、ラストに答えが表示された瞬間、人はこうも笑ってしまうものなのかと痛感させられる。
(マジックばかりを見ていると、こういう感覚が驚いている観客を通してでしか味わうことができくなってくる)
ぜひ1度試してみてほしい。
状況さえ整えば、「1つの現象として普通に成立させられるのでは?」と、きっとそんな考えに取り憑かれてしまうはずだ(笑)