【レビュー】Automatic Effects by ジャン


本サイトに数回ほどレビューを寄稿してくれているジャンさんが、今度は自分のちょっとした作品集にレビューをしてくれと頼まれたので、ここで書いてみようと思う。

とはいえ、この「ジャン」と名乗る男がどういう人物なのかを簡単に説明すると、、、いや簡単にってのは難しいな。

彼にはいろんな面がある。

「ファローシャッフルは基本技法」だとか「クラシックフォースはスライハンド」だとかをサラリと言ってのけ、意識高い系をアピールしたかと思ったら、今度は挨拶代わりにサイコロジカルフォースをカマしてくる。

催眠術に手を出せば、「日本はいつまで古典催眠をひけらかすつもりなんだ!」とヤジを飛ばし、日本人には不向きだと長年言われ続けていた現代催眠を平然とやってのけ、その直後に「ギミックは買うより作る方がお得だ」と、目の色を変えたように工作に励むような奴だ。

まるで、3~4人の人物設定を1つに集約させた架空の人物であるかのよう(笑)

詰まる所、彼は何に対しても、片寄りがない。

現象の最終目標が「メンタル」だということ以外は。

そんな人間がこの度、個人サイトで3作目となるレクチャー作品「Automatic Effects」を出した。

Automatic Effects | Trick or Mind’s Shop

(それまでは催眠術クラシックフォースと続き、単品ものではオリジナル仕様のマークドデックがある)

今作はダウンロードコンテンツ(動画+PDF)となっていて、テーマは文字通りオートマチック。

演者は椅子に座ったまま、何もしていないように見える「4つの作品+スモールアイデア」が収録されている。

厳密には演者が行う必要最低限の「動作」が最大限の「操作」に変わっていると言うべきか。

まあ、詩的な謳い文句はこれくらいにして、早速、各作のレビューへ入ろう。

R4 (Card Mentalism 01)

本人曰く、「価格設定の7割はほぼこいつのためと言っても過言では…」だそう。

【現象】

演者が(ほぼ)カードに触れない状態で予め混ぜられたデックを観客に渡し、そこから1枚カードを選んでデックへ戻し、混ぜた後に表向きで4つの山に分けた状態から演者が観客の表情を見ながら、その覚えたカードを探し出す。

※レギュラーデックのみを使用

【演技動画】

本作の「R4」は表向き「マジシャン殺し」を目的に作られたようだが、表情当てというゲーム性を帯びさせることによって、マジシャンと非マジシャンを一緒くたにした状況でも問題なく行うことができる。

それになんといっても、演者への負担の少なさから普通に表情当ての練習にもなるくらい遊べるのが良い。

「マジシャンを騙すなら、歴史を学べ」とよく言われるが、これもまさにそうだ。

マジックを行き当たりばったりでやっている連中からしたら(ほとんどがそうだけど)、知らないものは知らないし、頭の中だけで追うなんてこともできたもんじゃない。

解説動画では、同じ原理を使った過去作について振り返るも、それまでいかに演者の自己満で終わっていたか、さらには細かなポイントやバリエーションの紹介など詳細に掘り下げられている。

ごく単純に原理の中身を知るよりも、彼が語る人間の習性について耳を傾けた方が得るものは大きいと思えてならない。

ある意味「セルフワーキング」という概念をカードの原理だけでなく、人間の行動原理にまで押し広げたメンタルマジックといった方が正しいだろう。

SFPB(SFペーパーバッグ)

【現象】

観客の前に2つの紙袋がある。そのうちの1つを観客に渡し中に何も入っていない事を確認してもらい、7〜10個の候補を挙げ「紙袋の中に何が入りそうか、2つのものを思い浮かべて下さい」と言う。観客が選んだ2つのものがもう片方の紙袋から出てくる。

一言でいえば、これはサイコロジカルフォースの提案だ。

サイコロジカルフォースに関しては、私自身、人よりも詳しい方だと思っていたのだが、これは新しいタイプに属する。

選ばせる品物は紙袋に入っていそうな大きさであれば、完全にフリー。

ただし、これは1つの作品として完成しているわけではなく、あくまでフレームワーク(=手法)の提示に止まっている…。

おしいっ!すごくおしい!!

裏を返せば、ものすごく可能性を感じるフォースで、「君ならもっと考えられたはずだろ!」と思ってしまうぐらいに。

でも、本人は普段から挨拶代わりにサイコロジカルフォースをキメてくるような環境にいるせいか、発表する分には今回の手法を確立した時点で「あとはお好きにどうぞ」というスタンスなのだろう。

現に、サイコロジカルフォースはカードやコインのような一技法であって、それがうまくいかなかった場合のアウトが採用される作品によって異なるのは当然といえば当然の話だ。

本作でもアウトに関しては、一応触れられてはいるものの、その状況をもっと活かしたものがあるはずだと、ついつい考えさせられる。

実に改良のしがいがある良い問題を譲ってもらったような気分だ。

少し準備はいるが、サイコロジカルフォースが気になる人、日用品を使ったメンタルが好きな人向けには格好のネタだと思う。

なお、サイコロジカルフォースの解説には珍しく、原理部分に心理学的な説明が挿入されているが、お堅い表現は避けたいのか、ざっくりとした説明に止まっている。

それでも、こちらの方面に興味がある人には大きな一歩になるかもしれない。

AM ZENER

【現象説明】

・第1フェーズ:相手の選んだカードを裏向き(or表向き)の状態で演者が当てる。
・第2フェーズ:表向きの状態で観客がペンデュラムを持って「Yes/No」で違う動きをすることを認識する。
・第3フェーズ:裏向きの状態で観客が当てる。

【演技動画】

昨年大ヒットした「MRIペンデュラム」がトランプを使っていたのに対して、こちらはESPバージョン。

前の記事でも指摘したとおり、振り子の手順は原理もろとも決まりきっているなか、「AM ZENER」では、ESPの採用によっていくつかの利点をもたらしている。

「MRIペンデュラム」では、それまで日本語ではまとまった手順のなかったテーマに対して、何か新奇性を与えるために、あえてトランプを使い、あえて他にはない解釈をつけ、「エグい」という言葉とともに大衆を扇動しているように見えたが、こちらはもっとカジュアルだ。

可能な限り冗長さをなくし、1対1の場面でも適用できるように工夫され、誘導方法もまた単純化されている。

ただし、「MRIペンデュラム」を先行作品として考えたとき、やはりこちらはただの改案にしか映らないだろう。

Stop My Pulse 

ここでは、暗示や道具を使わずに演者の脈を止めてしまう方法が解説されている。

私の知っている限り、脈止めの方法には難しい順に「瞑想>>>暗示>ゴムボール>桂木康朗の方法」があるが、これはそのどれにも当てはまらず、また最も簡単な方法だと断言できる。

暗示に頼らず、人体構造の盲点を突いている。難しい解説は特になく、自分の脈さえ取れれば、誰にでもできる。

しかも、やり方があまりにシンプル過ぎて、「スカルダガリ」でルーク・ジャーメイもやっているんじゃないか、あえてDVDではそれについて触れなかったんじゃないかと本人もお伺いを立てる始末。

なお、本作にも動画とPDFでの解説があるが、こちらは元々PDFで数量限定で無料配布していたものであるため、動画では見せ方に関する補足的な説明に止めている。

[数量限定無料配布中] STOP YOUR PULSE | Trick or Mind’s Shop

(追記2017/10/23:今では無料配布期間が終了している)

スモールアイデア

ここでは、ストリッパーデックに関する小ネタがいくつか解説されている。

従来の手法をストリッパーデックに移し替えることで、彼の言う「スーパーユーティリティデック」らしさを伝えた内容。

一部「automatic」というテーマから少し脱線しているのでは?と思う部分もあるが、そもそも彼のストリッパーデックへの熱意は他とは全然違う。

ストリッパーデックというと、巷ではテンヨーで売られているような初心者向けのトリックデックというイメージがあると思う。

ところが、彼の場合、最初から使うモノが違う。

まず、アイルランドから仕入れたバカ高い工具を使って、好きなデックを1枚ずつストリッパーデックに変える作業から始まる(笑)

(本人のサイトでは、タリホー版のストリッパーデック<ワンサイド>が販売されている)

徹底的に角度にこだわり抜いたために、「ギミック=誰でも簡単にできる」という概念を普通に打ち負かしてくるありさま。

近年では、数理的原理に簡単な技法を加えた「セミオートマチック」なんてジャンルもあるが、この場合、ギミックの機能性にスライハンドを加えたと言うべきか。

あるいは、もっと単純にギミックのチープさをスライハンドで補ったと言うべきなのか…。

【総評】

全体を通して見て思ったのは、これは「よくあるセルフワーキングで自動的に」ではなく、演者の行動には全てに意味があり、それによって観客の行動が必然的にそう操作されたために自動化されたアイデア集であること。

実のところ、今回は4作品というか、1作品+その他アイデア集といった方が正しいと思う。まあ、冒頭の本人談「価格設定の7割は~」っていうのは、まさしくあるがままを言い表していると考えていい。

また、本人によれば、動画を見て同じことができれば、それ以外の細かい話は重要ではないと思っているそう。

「R4」でさえ、あれだけ考え抜かれた作品でありながら、名前の由来は特になしだそうだ(笑)

全体的にあくまで動画解説がメインであり、付属されるPDFデータ(26ページ)は動画で語るほどでもなかった情報をまとめたようなもので、読み物としては正直期待しない方がいい。

それゆえ、「R4」の動画がずっと気になっていて、過去にMRIペンデュラムを見た経験がなく、また新たなサイコロジカルフォースと脈止めの方法に興味があるって人には打ってつけだと思うし、オートマチックといえど、買ってよかったと思えるのはメンタルに従事する中級者以上になるのは間違いない。